「親子共有名義の不動産を売却した方が良いのか分からない」
「売却する場合の注意点は?」
と悩んでいませんか?
このページでは、親子共有名義の不動産売却の判断基準をプロが分かりやすくご案内します。
目次
親子共有名義とは?3つのパターンを解説
- 親の不動産を相続する
- 親から生前贈与を受ける
- 親子共同で不動産を購入する
共有名義とは、1つの不動産を複数の名義人で所有している状態のことです。
親子共有名義の名義人は、親+子(兄弟・姉妹)です。
3つのパターンについて、ご案内します。
親の不動産を相続する

親が亡くなると、親が所有する財産(不動産)は法定相続人に引き継がれます。
法定相続人とは、亡くなった人の財産を相続する権利を持つ人のことで、相続順位が決められています。
例えば、両親のどちらかが亡くなった場合、法定相続人は配偶者(もう一方の親)と子です。
仮に財産が不動産だけなら、親子で2分の1ずつ相続します。
親から生前贈与を受ける

生前贈与とは、将来相続する財産を親が存命中に受け取ることです。
相続税対策のために、持分を贈与することがあります。
親の不動産の評価額が高い場合に、将来の相続税の負担を減らすために行います。
親子共同で不動産を購入する

親子での共同購入とは、主に親と子が共同で住宅ローンの契約を組んで二世帯住宅を購入することです。
出資額に応じて不動産の持分が決まります。
例えば、親子で3,000万円ずつ(合計6,000万円)ローンを組んで、二世帯住宅を購入するといったことをします。
親が住まない場合でも、子どもの住宅購入を支援するために、親が資金援助を行うことはよくあります。
親子共有名義のメリット
- メリットと概要
| メリット | 概要 |
|---|---|
| ローン借入額が増える | 親子2人分の収入から借入の上限額が決まるので、単独より多くの資金を借りられる |
| ローン控除を共有者それぞれが受けられる | ローン残高✕0.7%の減税を二人分受けられるので節税効果が大きくなる |
| 税金、修繕費の負担を分担できる | 固定資産税や維持修繕にかかる費用は共有者全員に支払い義務があるので、一人あたりの負担が少なくてすむ |
| 売却時の控除を共有者それぞれが受けられる | 同居している場合に限り、将来売却したときの譲渡所得控除3,000万円を親子とも適用できる |
親の貯金や収入を利用してローンを組むことで、よりよい条件の家を購入できるので、若くて自己資金が少ない子どもにとって、経済的なメリットは大きいです。
この他に、子育てのサポートを受けられるのもメリットです。
親にとっては、介護や病気になっても安心できるというメリットがあります。
親子が家に住んでいる場合、親子ともども最大3,000万円までは譲渡所得税がかかりません。
例えば、親と子で50%の持分で共有している不動産を5,200万円で売却した場合、持分の売却益はそれぞれ2,600万円ですので、3,000万円の控除を適用できるなら、譲渡所得税は課税されないということです。
親子共有名義のデメリット
- 自由に売却できない
- 相続が発生すると権利関係が複雑化する
- 親が認知症になると売却が難しくなる
- 親が亡くなるとローンの負担が増える
- 贈与税が発生することがある
- 固定資産税や維持修繕費の支払いで揉める
詳しくご案内します。
自由に売却できない
民法251条により、共有者全員の同意が得られないと売却できません。
-
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
親子で共有している場合は、共有者の親と子が売却に同意する必要があります。
相続が発生すると権利関係が複雑化する
新たな相続が発生すると第三者が共有者になる場合があり、さらに活用や処分が難しくなります。
例えば、三人兄弟がいて、母と次男の2人で共有していた状態で母が亡くなると、次男と兄と弟が相続人になります。
さらに弟が亡くなると、その配偶者と子供が共有者になります。
売却をする場合に、次男と兄、弟の妻と子供、全員の同意が必要な状態が出来上がります。
行為と必要な同意は次のように決まっています。
| 行為 | 同意が必要な共有者の範囲 |
|---|---|
| 売却・抵当権の設定(処分行為) | 共有者全員の同意 |
| 大規模な修理・リフォーム | 共有者およびその持分の過半数の同意 |
| 軽微な修理・賃貸借契約の解除 | 共有者およびその持分の過半数の同意 |
親が認知症になると売却が難しくなる
親が認知症になると本人の意思だけでは売却できなくなります。
成年後見人を選んだとしても、明確に本人の利益にならなければやはり売却はできません。
- 成年後見人…認知症や知的・精神障害などで判断能力が十分でない人に代わって法律行為を行う権限を持つ人
成年後見制度の趣旨は「本人の財産を保護すること」だからです。
例えば、子(自分)が「教育資金に充てたい」と思っても売却は認められません。
親が亡くなるとローンの負担が増える
親が団体信用生命保険に加入しない(できない)場合が多いです。
団体信用生命保険(団信)とは、住宅ローンを契約するときに加入する生命保険のことで、契約者が死亡または高度障害になった場合に、住宅ローンの残額と同額の保険金が金融機関に支払われます。
そのため、親が住宅ローンの返済中に亡くなってしまうと、親の返済額がそのまま子にのしかかってきます。
例えば、親子のローンが合計5,000万円で、親が団信未加入の状態で親が亡くなると、子の総負担は合計5,000万円になるということです。
贈与税が発生することがある
次のような場合、贈与税が発生することがあります。
- 費用負担を立て替えた
- 持分を超えて出資した
- 売却時に分配割合以上に受け取った
共有名義は持分割合が決まっており、それを超えると「財産を贈与した」とみなされるからです。
例えば、持分割合2分の1ずつの不動産を4000万円で売却し、親が1,000万円、子が多めに3,000万円という割合で分配すると1,000万円贈与したとみなされます。
固定資産税や維持修繕費の支払いで揉める
民法253条の規定で、住宅にかかる費用は共有者全員に、持分に応じた支払い義務があります。
-
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
親子共有名義の実家に親だけが住んでいる場合、固定資産税や雨漏りなどの修繕費用は、共有者である子も負担しなければいけません。
例えば、半分ずつの持分だった場合、シロアリの駆除費用が30万円かかったら、親と子が15万円ずつ負担をする必要があるということです。
親子共有名義の不動産を売却すべきかどうか判断する方法
次のチェックリストを売却の判断にお役立てください。
- 売却の判断基準
| 状況 | 例 |
|---|---|
| 親の老後資金や介護資金を確保したい | 近いうちに親が施設に入るため、まとまった資金が必要になる |
| 将来、共有者間で争いが起きるのを避けたい | 兄弟姉妹の間で「売る・貸す・住む」の意見が分かれており、揉めてトラブルになりそう |
| 親の意思能力、健康状態が危ういので早めに判断したい | 最近認知症のような症状が出始めているが、今なら本人の意思で売却できる |
| 今後、誰も住まないので早めに判断したい | 親は施設に入っていて実家に誰も住んでおらず、今後も同様 |
| 遠方の不動産管理から解放されたい | 親が住んでいてが、県外に住んでいる自分だけが、固定資産税や修繕費などの負担をしている →このような場合はリースバック(売却後の賃貸)を検討する |
| 住宅ローンを返済して毎月の返済を減らしたい | 親が高齢で収入減、ローン返済が家計を圧迫していて、収入が元に戻る見込みは無さそう |
このような場合は売却する場合が多いです。
共有者全員の同意を得られるなら、不動産全体を売却してください。
同意が得られない場合は、自分の持分だけを売却することもご検討ください。
自分の持分だけなら自由に売却できることは、民法206条で規定されています。
-
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
悪質・悪徳な業者がいますので、売却先は慎重にお選びください。
リースバックとは、不動産を一度売却した後、売却先から賃貸として借りて住み続ける契約のことです。
詳しくはこちらの「持分リースバック」でご確認いただけます。
ただし、住宅ローンの残債がある場合は、売却代金でローンを返済できるかどうかで、売却方法が異なります。
| 状況 | 売却方法 |
|---|---|
| アンダーローン(売却価格 > ローン残債)の場合 | 一般の不動産会社に依頼して市場価格で売却し、売却代金でローンを完済し、残りを親子で持分に応じて分配する |
| オーバーローン(ローン残債 > 売却価格)の場合 | ①自己資金で残債を支払ってから売却する、②金融機関の許可を得て任意売却をする |
任意売却とは、住宅ローンの返済ができなくなった場合に、金融機関(債権者)の合意を得て不動産を売却することです。
その売却代金でローンの残債を返済し、残ったローンの返済を続けます。
任意売却は自分でするのはとても難しいので、専門機関に依頼をしてください。
親子共有名義の不動産を売却する際の5つの注意点
- 持分の売却だけだと査定額が低い
- 親が認知症になると売却できなくなる
- 余計な税金がかかるケースがある
- 住宅ローンの残債と売却額の相場を確認しておく
- 持分の買取業者には悪質・悪徳な業者がいる
詳しくご案内します。
【注意点①】持分の売却だけだと査定額が低い
自分の持分だけなら同意無しで売却できますが、査定額が低いです。
具体的には市場価格の30%~50%になります。
例えば、親子共有名義の評価額6,000万円の不動産があり、そのうちの2分の1の持分を売却しても、3,000万円ではなく、その30%~50%の900万~1,500万円になるということです。
理由は次の通りです。
- 買取業者は他の共有者から持分を買う必要がある
- 状況により、そのやり取りに時間と労力、費用がかかる
- トラブルになる可能性もある
共有者全員で不動産全体を売却できれば市場価格で取引できますが、全員の同意が必要です。
【注意点②】親が認知症になると売却できなくなる
認知症と診断された場合、裁判所によって「意思決定能力が無く、財産を保護できない」と判断されるからです。
財産を保護するための成年後見制度がありますが、あくまで保護が目的なので、後見人には不動産の売却や契約など重要な財産処分に制限がかかります。
例えば、親子共有名義の不動産を売却する場合、裁判所の許可が必要といったことです。
事前に後見人を定める「任意後見制度」を利用しても、後見人は本人の意思を尊重しつつ、裁判所の監督下でしか不動産処分などを行うことができません。
【注意点③】余計な税金がかかるケースがある
共有名義の持分割合と違う配分を行うと、贈与税の対象になる可能性があります。
譲渡所得税を払った上に贈与税まで払うことがあります。
例えば、親子で半分ずつ共有している7,000万円の不動産を売却し、親2,500万円、子4,500万円と分配した場合、子が多く受け取った差額1,000万円(4,500万円-3,500万円)は親からの贈与とみなされ、贈与税が課税されます。
これとは別に、持分割合(それぞれ1/2=3,500万円)に対して、親子の両方にそれぞれ譲渡所得税が課税されます。
【注意点④】住宅ローンからは逃れられない
共同購入した不動産を売却しても住宅ローンが残る場合は、ローンの契約形態に応じて親子で払う必要があります。
夫婦共有名義の不動産を相続して親子共有名義になった場合、亡くなった親が団体信用生命保険に加入していなければ、その親のローン債務は相続人である子(と配偶者)が相続し、支払うことになります。
債務超過の場合は、相続放棄をご検討ください。
【注意点⑤】持分の買取業者には悪質・悪徳な業者がいる
どの業界にも、悪質・悪徳な業者がいます。
相続による親子共有名義の不動産は、超高齢社会化が進むにつれてどんどん増え続けています。
それに伴い、悪質・悪徳な業者が増えています。
業者の選び方にはポイントがあります。
- 早く買取ってくれる
- 共有持分を専門に買取している
- 買取実績が豊富
- 弁護士と提携している
- 担当者の対応が良い
- 口コミ・評判が良い
より詳しくはこちらの「売却先を選ぶ6つのポイント」でご確認いただけます。
親子共有名義の不動産を業者に売却する以外の解消方法
- 親or子の持分を全て購入する
- 親or子に持分を売る
- 親or子に贈与する
- 自分の持分を放棄する
- 共有物分割請求訴訟をする
- 親or子に負担付贈与をする
- リースバックをする
- 分筆する
共有物分割請求訴訟とは、共有不動産を裁判所を通じて強制的に分割して解消するための法的な手続きのことです。
分割方法は3つあります。
- 現物分割…土地を物理的に分ける(分筆する)
- 代償分割…1人が不動産を取得し、他の共有者に代償金を支払う
- 換価分割…不動産を売却し、売却代金を持分に応じて分ける
例えば、子は売却したいが、親は住み続けたいといったケースで、訴訟されることがあります。
詳しくはこちらの「共有物分割請求訴訟とは?」でご確認いただけます。
負担付贈与とは、財産を贈与する代わりに、受け取った人が一定の負担をする贈与のことです。
例えば、住宅ローン返済を親の代わりに支払うといった負担が考えられます。
リースバックとは、不動産の所有権を売却し、家賃を支払ってその不動産に住み続ける仕組みのことです。
より詳しくは「持分リースバックの解説ページ」をご覧ください。
分割とは、1つの土地を複数の区画に分けて、別々の土地として登記することです。
親子共有名義の土地が分筆できるぐらい広い場合に行います。
まとめ
親子の共有名義では、予期せぬ問題が起こりやすいです。
家族が健康なうちに話し合いを進めてください。
