共有名義の相続2パターンを解説!手続き・税金・名義変更の流れ

「親の不動産を兄弟で共有名義にして相続したいけど、大丈夫?」
「共有名義のまま相続すると、後でトラブルになるって本当?」

このように考えていませんか

この記事では、共有名義の相続について、プロが分かりやすく解説します。

この記事の作成者

専門相談員 戸田 良行Yoshiyuki Toda

【資格】宅地建物取引士
神奈川県出身。高校サッカーで全国大会進出を果たし、指導者の道に進む。その後、大手不動産会社で不動産のノウハウを蓄積する。諦めないことを信条に、お客様の希望を叶えるため日々奮闘中。

共有名義の相続の2つのパターン

共有名義の相続には次のような2パターンがあります。

  1. 既に共有名義の不動産で片方が死亡した場合
  2. 単独名義の不動産を共有名義で相続した場合

単独名義と既に共有名義だった場合の違いは次の通りです。

比較項目 既に共有名義の場合 単独名義の場合
相続財産の範囲 亡くなった人の持分のみ 不動産全体
相続税の課税対象 亡くなった人の持分のみ 不動産全体
共有名義にするかの選択 すでに共有状態 相続人が自由に選べる
登記の種類 持分一部移転登記 持分全部移転登記
登記名義の変化 被相続人の持分 → その相続人 被相続人(単独)→ 相続人ら(共有)

相続財産の範囲

共有名義の不動産で片方が死亡した場合の相続の対象は亡くなった方の持分のみです。

例えば、父と子で均等の割合で共有名義にしている不動産があり、父が亡くなった場合、その持分2分の1を、母と子で法定相続分に従って相続すると、持分は母4分の1(父の持分2分の1を相続)、子は4分の3(元の持分2分の1+相続分4分の1)です。

片方死亡した場合についてはこちらの「共有名義で片方死亡したら相続はどうなる?」でご案内しています。

相続税の課税対象

相続税は亡くなった人が所有していた財産に対してのみ課税されます。

  • 共有名義…不動産全体
  • 単独名義…亡くなった人の持分のみ

評価額5,000万円の不動産を夫婦が2分の1ずつ共有していて夫が死亡した場合、課税対象は夫の持分2,500万円分のみで、妻の持分2,500万円には相続税がかかりません。

夫が単独名義で所有していた5,000万円の不動産を相続する場合、5,000万円全体が課税対象です。

登記の種類

持分全部移転登記とは、不動産の所有権全体を相続人に移す登記のことです。

例えば、父が単独で所有する自宅を母と子2人で相続する場合、持分全部移転登記を申請します。

共有名義で相続する手続き4つのステップ

4つのステップ
  1. 遺言書の有無を確認する
  2. 相続人と財産の範囲を確定する
  3. 遺産分割協議と協議書の作成を行う
  4. 共有名義の相続登記を申請する

順番にご案内します。

【ステップ①】遺言書の有無を確認する

公正証書遺言や自筆証書遺言がある場合は、その内容に基づいて相続人や相続分が決まります。

公正証書遺言とは、公証人が作成し公証役場で保管する遺言書のことです。

自筆証書遺言とは、本人が全文を手書きで作成する遺言書のことです。

【ステップ②】相続人と財産の範囲を確定する

相続が発生すると、法定相続人が確定します。

法定相続人とは、民法で定められた相続できる人のことです。

その順位は次の通りです。​

配偶者 常に相続人になる
第1順位 子(または孫など直系卑属)
第2順位 親など直系尊属
第3順位 兄弟姉妹

次に相続財産の範囲を確定します。

相続財産とは、被相続人が所有していたすべての財産と負債のことです。

具体的には次の通りです。

  • 不動産(土地、建物)
  • 預貯金
  • 株式、有価証券
  • 自動車
  • 借金、ローン

亡くなった人の持分割合は、不動産の登記事項証明書を法務局で取得して確認します。

【ステップ③】遺産分割協議と協議書の作成を行う

遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合うことです。

必要書類は戸籍謄本、印鑑証明書、固定資産評価証明書、遺産分割協議書などです。

費用は登録免許税(固定資産税評価額×0.4%)や司法書士報酬などがかかります。

詳しくは「共有名義の相続登記とは?」をご覧ください。

【ステップ④】共有名義の相続登記を申請する

法務局で亡くなった方の持分の名義変更をします。

正当な理由なく3年以内に登記しないと、10万円以下の過料が科されます。

理由は、2024年4月から相続登記が義務化されたからです。

放置すると次のようなリスクが発生します。

リスク 具体的な内容
手続きの複雑化 相続人がさらに亡くなると関係者が増え、手続きが困難になる
不動産の売却・活用ができない 名義が亡くなった人のままでは売却や担保設定ができない
他の相続人とのトラブル 時間が経つと相続人間で意見が対立しやすくなる
債権者による代位登記 債権者が勝手に法定相続分で登記する可能性がある

例えば、父が死亡して10年放置した後に手続きする場合、その間に相続人の1人(母)が亡くなると、母の相続人(子や孫)全員の同意が必要です。

相続登記は速やかに行ってください。

共有名義の相続で必用な書類

共有名義の相続登記を申請する際に必要な書類は次の通りです。

書類名 概要
戸籍謄本(出生~死亡まで) 被相続人の法定相続人を確定するために必要
住民票の除票 被相続人の最後の住所を証明するために必要
相続人全員の戸籍謄本 相続人であることを証明するために必要
相続人全員の印鑑証明書 遺産分割協議書に押印した実印を証明するために必要
遺産分割協議書 ・誰がどの持分を相続するか記載した書類
・相続人が作成
固定資産税評価証明書 登録免許税を計算するために必要
登記申請書 所有権移転を法務局に申請する書類

費用の内訳は次の通りです。

費用項目 計算方法・金額
登録免許税 固定資産税評価額 × 0.4%
書類取得費 約5,000~1万円
司法書士報酬(依頼する場合) 約7万~15万円

例えば、評価額3,000万円の不動産を相続する場合、登録免許税は12万円(3,000万円 × 0.4%)です。

基礎控除額と相続税の計算5ステップ

相続税の計算ステップは次の通りです。

ステップ 内容
①遺産総額を計算する 不動産、預貯金、株式などすべての財産を合計する
②課税遺産総額を計算する 遺産総額から基礎控除額を差し引く
③法定相続分で按分する 課税遺産総額を法定相続分で仮に分ける
④相続税の総額を計算する 各相続人の仮の相続額に税率をかけて合計する
⑤実際の相続割合で按分する 相続税の総額を実際の相続割合で分ける

基礎控除について

相続税には基礎控除額という相続税がかからない非課税枠が設定されています。

その計算式は次の通りです。

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

例えば、法定相続人が配偶者と子2人の計3名の場合、基礎控除額は4,800万円(3,000万円 + 600万円 × 3人)です。

仮に遺産総額が6,000万円の場合、課税遺産総額は1,200万円(6,000万円 – 4,800万円)です。

この場合、相続税は発生しません。

課税遺産総額で使える特例

特例 概要
小規模宅地等の特例 自宅や事業用の土地の評価額を最大80%減額できる
配偶者の税額軽減 配偶者が取得する遺産の課税価格がその法定相続分または1億6,000万円以下であれば相続税がかからない
未成年者控除 相続人が未成年者の場合、20歳になるまでの年数×10万円を相続税額から控除される
障害者控除 相続人が障害者の場合、85歳までの年数に応じて控除される
相次相続控除 10年以内に連続して相続が発生したとき、前回の相続税の支払額等を基に控除される

小規模宅地等の特例の適用面積と減額割合は次の通りです。

土地の種類 適用面積 減額割合
居住用(特定居住用宅地等) 330㎡まで 80%
事業用(特定事業用宅地等) 400㎡まで 80%
賃貸用(貸付事業用宅地等) 200㎡まで 50%

例えば、300㎡の土地を夫婦が2分の1ずつ共有していて夫が死亡した場合、特例が適用されるのは夫の持分150㎡分のみで、妻の持分150㎡は対象外です。

不動産を共有名義で相続する3つのリスクと対策

3つのリスク
  1. 売却などの活用が進まない
  2. 管理費・固定資産税の負担割合で揉める
  3. 次の相続で権利関係がさらに複雑化する

順番にご案内します。

【リスク①】売却などの活用が進まない

不動産の売却や大規模なリフォームには、共有者全員の同意が必要だからです。

民法第251条で「共有物に変更を加える行為は全員の同意が必要」と定められています。

変更行為とは次のようなものです。

  • 不動産の売却
  • 建物の取り壊し
  • 大規模なリフォーム
  • 抵当権の設定

例えば、父の自宅を母と子2人の計3名で相続した場合、売却には全員の同意が必要で、1人でも反対すれば売却できません。

次のような状況では、同意を得ることが難しいです。

  • 相続人同士の関係が希薄で連絡が取りにくい
  • 相続人の一人が海外在住で音信不通である
  • 意見が対立している

対策は次の通りです。

  • 共有物分割協議で単独名義に変更する
  • 持分を他の共有者に売却または贈与する
  • 共有持分だけを売却する

予防法は、相続前に贈与したり、遺言書で単独名義で相続させる手続きを取ったりすることです。

【リスク②】管理費・固定資産税の負担割合で揉める

持分割合と実際の利用状況が一致しないことが多いからです。

固定資産税や維持管理費は持分割合で負担するのが原則です。

固定資産税は連帯納税義務があるため、誰か1人が滞納すると他の共有者全員に請求が来ます。

対策は、共有名義にする場合に次の内容を明確にしておくことです。

  • 費用負担の具体的なルール
  • 居住する人と費用負担の調整方法
  • 支払い方法と期限

書面で合意書を作成しておくと、後のトラブルを防ぐことができます。

【リスク③】次の相続で権利関係がさらに複雑化する

共有者の1人が亡くなると、その持分がさらに複数の相続人に分割されるからです。

【ケース】三人兄弟で3等分ずつ相続した

父の自宅を三人兄弟で持分3分の1ずつ相続した。

10年後に兄が死亡し、兄の持分3分の1をその配偶者と子2人の合計5名で相続した。

兄の配偶者:6分の1
兄の長男:12分の1
兄の次男:12分の1
次男:3分の1
三男:3分の1

次男、三男、兄の配偶者が亡くなると、共有者が10名以上になることがあります。
すると、次のような問題が発生します。

  • 連絡を取ることすら困難になる
  • 全員の同意を得るのに数年かかる
  • 遺産分割協議がまとまらない

相続発生前に次の対策をしてください。

  • 遺言書の作成…特定の1人に相続させる内容を記載する
  • 生前贈与…共有持分を早めに整理する

贈与とは、財産を無償で他の人に譲ることです。

すでに共有名義になっている場合は、早めに共有状態を解消してください。

相続後に共有状態を解消する5つの方法

5つの方法
  1. 自分の持分だけを売却する
  2. 代償分割を行う
  3. 換価分割を行う
  4. 分筆(現物分割)する
  5. 共有物分割請求訴訟を提起する

順番にご案内します。

【方法①】自分の持分だけを売却する

他の共有者の同意なしで、自分の持分のみを売却できるからです。

民法第206条で「所有者は自由に処分できる」と定められています。

売却先は次の2つです。

  • 他の共有者に売却する
  • 共有持分の買取業者に売却する

メリットは、速やかに現金化できることです。

デメリットは買取業者への売却は、市場価格の30~50%程度になることです。

例えば、評価額6,000万円の不動産で持分3分の1を所有している場合、2,000万円ではなく、600万円~1,000万円程度です。

他の共有者に売却する場合は、市場価格に近い価格で売却できます。

詳しくは「共有持分の処分行為とは?」をご覧ください。

【方法②】代償分割を行う

代償分割とは、特定の相続人が不動産を単独で取得し、他の相続人に代償金を支払う方法です。

例えば、評価額6,000万円のマンションがあり、実家に住み続けたい長男が単独で相続し、次男と三男に2,000万円ずつ支払います。

メリットは1人が単独所有するため、管理や活用がしやすいことです。

デメリットは相応の現金が必要なことです。

【方法③】換価分割を行う

換価分割とは、不動産を売却して現金化し、売却代金を持分割合に応じて分配する方法です。

例えば、評価額4,000万円の土地を売却し、相続人4名で1,000万円ずつ分配します。

メリットは次の通りです。

  • 相続人全員に平等に分配しやすい
  • 市場価格で売却できるため損失が少ない

デメリットは次の通りです。

  • 不動産に住んでいる人がいる場合、合意を得にくい
  • 売却に時間がかかる場合がある

相続人全員が不動産を使用していない場合、換価分割が最もトラブルが少ないです。

【方法④】分筆(現物分割)する

土地を分筆して物理的に分けて、各相続人が単独名義で所有する方法です。

分筆とは、1つの土地を複数の土地に分割することです。

例えば、200㎡の土地を2つに分けて、それぞれ100㎡ずつ2人の相続人が単独で所有します。

メリットは次の通りです。

  • 各相続人が単独所有するため、将来のトラブルを防げる
  • 不動産を売却せずに解決できる

デメリットは次の通りです。

  • 分筆費用(測量費・登記費用)が数十万円かかる
  • 土地の形や面積によっては分筆できない場合がある
  • 建物は分筆できない

【方法⑤】共有物分割請求訴訟を提起する

裁判所に分割方法を決めてもらい、強制的に共有状態を解消する方法です。

共有物分割請求訴訟とは、裁判所が分割方法を決定する訴訟のことです。

メリットは次の通りです。

  • 相続人間で合意できなくても強制的に共有状態を解消できる
  • 裁判所の判決に法的拘束力がある

例えば、裁判所が換価分割を選択した場合、不動産を競売にかけて売却代金を分配します。

デメリットは次の通りです。

  • 訴訟費用と弁護士費用が高額になる(数十万円~)
  • 解決まで半年~1年以上かかる

話し合いで解決できない場合の最終手段として検討してください。

詳しくは「共有物分割請求訴訟とは?」をご覧ください。

共有名義の相続についてのまとめ

共有名義の相続には2つのパターンがあります。

違いを理解し、必要な手続きや対策を行ってください。