「離婚する場合、持分だけを売却できる?」
「共有名義のままにしておくと、どうなる?」
と悩んでいませんか?
このページでは、離婚の際に共有持分を売却できるのか?を、プロが分かりやすくご案内いたします。
目次
離婚する場合、持分だけを売却できる?
共有持分だけなら、他の共有者(元配偶者)の同意なしで、自由に売却できます。
民法206条に規定されています。
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所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
ただし、次の情報を知らずに行動すると、後悔してしまう可能性が高いです。
- 住宅ローンが無ければ売却できるがデメリットがある
- 住宅ローンがある場合は、持分だけの売却は不可
- もし売却するならタイミングが大事
住宅ローンが無ければ売却できるがデメリットがある
住宅ローンが無ければ、持分だけを売却することができます。
ただし、次のようなデメリットがあります。
| デメリット | ポイント |
|---|---|
| 売却価格は相場の30%~50%になる | 買取業者は持分だけを買取ってもすぐに活用できず、他の共有者とのやり取りをする必要があるだけでなく、トラブルに対応するケースもあるので、査定額が安くなる |
| 財産分与の対象になる | 持分を売却して現金にしても、その売却額も財産分与の対象なので、元配偶者と折半する |
| 協議で不利になる | 勝手に売却したことで信頼関係が崩壊し、親権や養育費、慰謝料などの交渉で、相手からの譲歩を一切得られなくなる可能性がある |
| 調停・裁判で不利になる | 勝手に売却したことが、他の争点で不利な判断をされる材料になる |
| 悪質・悪質な買取業者に依頼してしまう | ・売却先の選定をミスして、本来の売却額(30~50%)より安く売ってしまう ・売却後に修繕費を請求される |
持分だけを売却することはできますが、得られるメリットはわずかな現金だけです。
相手の同意を得ずに勝手に売却すると、離婚協議で不利になってしまいます。
住宅ローンがある場合は、持分だけの売却は不可
住宅ローンがある場合は、持分だけを売却することはできません。
その理由は、不動産全体に抵当権がかかっていて、金融機関が承諾をしないからです。
抵当権とは、返済不能になった場合に、金融機関が裁判所に申立てて、その不動産を競売し、その売却代金からローンを回収する権利です。
売却するには、住宅ローンを返済して、抵当権を外す必要があります。
そのため、持分だけを売却することはできません。
もし売却するならタイミングが大事
住宅ローンが無い場合は、次のタイミングまでは、売却しても問題ありません。
- 離婚を切り出す前
- 別居を始める前
ですが、次のタイミングでは売却はNGです。
- 離婚を切り出した後
- 別居を始めた後
- 離婚協議中
- 離婚調停・裁判中
家は2人の共有財産で、財産分与で公平に50:50で分ける対象です。
そのため、持分を売却して夫婦の共有財産を勝手に減らすと、次のような事態になる可能性が高いです。
- 離婚協議で譲歩、協力が得られなくなる
- 他の財産で補うことになる
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夫婦の共有財産は、持分が50%ずつの共有不動産4,000万円と預貯金3,000万円の合計7,000万円。
本来は財産分与で3,500万円ずつ受け取ることができる。
だが、妻が自分の持分2分の1(2,000万円相当)を勝手に700万円で売却した。
激怒し夫が裁判所に訴えた。
裁判所は、残りの持分を700万円で売却できると計算し、夫がその700万円と預貯金2,800万円の合計3,500万円を受け取るように命じた。
妻は、売却益の700万円と預貯金の200万円の合計900万円を受け取れず、実質2,600万円の損となった。
それから、離婚調停・裁判中に、相手が「財産処分禁止の仮処分」を申し立てることがあります。
- 財産処分禁止の仮処分…裁判所が一時的に財産の処分を止める命令のこと
この処分が認められると、登記簿に「仮処分の登記」がされるため、第三者に売却できなくなります。
この処分前に売却してしまうと、他の財産で補うことになったり、損害賠償請求を受けることになったりします。
ですが、ご案内したように、デメリットが大きすぎるのでしないでください。
離婚する場合は、この後ご案内する方法で、共有名義を解消することをご検討ください。
離婚前に共有名義を解消する方法
もし住宅ローンが残っていて、今すぐ全額を返済できない場合、共有名義を解消するための現実的な手立ては、不動産全体を売却することだけです。
ですが、住宅ローンを完済していれば、次の4つの方法の中から解消法を選ぶことができます。
- 離婚前に共有名義を解消する4つの方法
| 方法 | 概要 |
|---|---|
| 共有名義の不動産全体を売却する | 第三者に売却し、売却代金を分け合う |
| 対価なしで単独名義にする(財産分与) | 金銭のやり取りなし持分を相手に譲渡して単独名義にし、その対価として他の財産(預貯金など)で調整する |
| 代物弁済で単独名義にする(財産分与) | 一方が相手に対して負っている債務(慰謝料など)を、不動産の持分で清算し、単独名義にする |
| 一方が持分を買い取り、単独名義にする(財産分与) | 相手の持分相当額を現金で支払い、単独名義にする |
住み続けたい場合は、次のいずれかの財産分与をすることになります。
- 他の財産で調整する
- 代物弁済する
- 現金で買取る
弁護士を挟んで離婚協議を進めることをご検討ください。
もし相手の善意で「離婚後も住んでいい」と言われたら、法的に住む権利を確保するために離婚協議書に明記したり、契約を交わしたりしてください。
なお、財産分与で相手の持分を購入して単独名義にする流れは次の通りです。
- 離婚協議
- 買取条件の交渉
- 離婚協議書を作成
- 支払い
- 所有権移転登記で単独名義にする
- 離婚届の提出
離婚時の不動産売却で後悔しないための4つの知識
- 住宅ローンがある場合の売却について
- 共有名義のまま売却できる
- 売却して利益が出た場合の分け方
- 税金や売却費用が発生する
それぞれご案内します。
①住宅ローンがある場合の売却について
売却すれば住宅ローンを完済できるアンダーローンの場合は、問題なく売却することができます。
売却する場合は、共有名義や離婚に詳しい不動産業者をお探しください。
もし売却しても住宅ローンを完済できないオーバーローンの場合は、任意売却をすることになります。
任意売却とは、住宅ローンを完済できない不動産を、金融機関の同意を得た上で売却する方法のことです。
専門のサポート機関がありますので、ご利用をご検討ください。
ただし、売却後に残った住宅ローンは、そのまま返済を続ける必要があります。
②共有名義のまま売却できる
不動産によりますが、共有名義を単独名義にする費用は、数十万円かかります。
共有者全員が同意すれば、共有名義のまま不動産を売却することができます。
単独名義にする必要はありません。
③売却して利益が出た場合の分け方
売却益は、財産分与として原則50:50で分けます。
例えば、夫婦の共有名義のマンション(評価額5,000万円)があり、持分が夫5分の4、妻5分の1の場合でも、財産分与で2,500万円ずつで分けるということです。
- 一方が頭金を全額負担した
- 相続で取得した部分がある
④税金や売却費用が発生する
不動産を売却する場合に、売主に発生する税金は次の通りです。
| 税金 | ポイント |
|---|---|
| 譲渡所得税 | 購入価格より高く売れた場合、利益(譲渡所得)に対して課税される ただし、居住用財産の3,000万円特別控除がある |
| 印紙税 | 売買契約書に貼る印紙で、売却価格に応じて変動 |
| 登録免許税 | 抵当権の抹消登記を行う際にかかる税金(売主が負担) |
居住用財産の3,000万円特別控除を利用すれば、売却価格が購入価格を上回っていも、3,000万円まで非課税です。
例えば、4,000万円で購入した共有不動産を6,000万円で売却し、1,800万円の譲渡益が出ても、3,000万円以内なので税金はかからないということです。
抵当権の抹消登記とは、住宅ローンなどの借金を返済し終えたときに、不動産に設定されている抵当権を登記簿から消す手続きのことです。
この税金に加えて、売主には次のような費用も発生します。
| 費用 | ポイント |
|---|---|
| 仲介手数料 | ・不動産会社に支払う報酬 ・33万円~ |
| 司法書士報酬 | ・抵当権抹消登記 ・3万円〜 |
| その他 | ・ハウスクリーニング費用、引越し費用など ・20万円~ |
全部覚えきるのは難しいですが、色々な費用があり、数十万円はかかるということだけは知っておいてください。
「離婚後も共有名義のまま」の7つデメリット
離婚後も共有名義のままにしておくことは、できる限り避けてください。
次のようなデメリットがあるからです。
- 「離婚後も共有名義のまま」のデメリット
| デメリット | 概要 |
|---|---|
| 連絡をするケースが出てくる | 売却・修繕などをする場合は元配偶者の同意が必要なため |
| 税金や維持費の負担で揉める | 固定資産税や修繕費などの負担割合、支払いで対立する |
| 住宅ローンの返済で揉める | 一方が支払わないと、もう一方に請求が来る |
| 家が競売になり、住家を失う | 借金(住宅ローンなど)の滞納の結果、競売にかけられ、結果的に住家を失う |
| 「売却」で揉める | 住み続けたい人と売ってお金にしたい人で対立する |
| 相続が発生して権利関係が複雑になる | 元配偶者が亡くなると、その相続人(再婚相手や子)と共有状態になる |
| 裁判で決着をつけることになる | 話し合いで解決できない場合は、共有物分割請求訴訟で分ける |
デメリットのより具体的な内容は「”離婚後も名義変更せず、共有名義のまま”の7つのデメリット」でご確認ください。
将来のトラブル回避するためにも、離婚前に共有名義を解消する方法で、離婚時に清算しておいてください。
共有名義の不動産に離婚後も住み続けたい場合は?
ただし、相応の費用がかかりますので、現実的には難しいことが多いです。
また、住宅ローンの有無でも変わってきます。
詳しくご案内します。
住宅ローン完済済みの場合
既にご案内している通り、3つの方法があります。
- 他の財産で調整する
- 代物弁済する
- 現金で買取る
どの方法も、単独名義にする側にまとまった現金が必要な場合が多いです。
もし財産が無い場合は、金融機関に相談して持分買取のためのローンを組むか、不動産全体を売却して、売却益を2分割することになります。
住宅ローンが残っている場合
売却がベストです。
それでも住み続けたい場合は、次の方法があります。
- 住宅ローンを借り換えて単独名義にする
- 共有名義のまま自分だけ住み続ける
それぞれご案内いたします。
①住宅ローンを借り換えて単独名義にする
単独名義で新たな住宅ローン審査を受け、審査が通れば、新ローンで既存ローンを完済した後、相手の持分を買取るという方法です。
ただし、次のような理由で現実的にはとても難しいです。
- 収入が足りないと審査に通らない
- 金融機関によっては離婚に伴う借り換えに消極的
②共有名義のまま自分だけ住み続ける
ローンの返済を共同でし続け、完済後に単独名義化するという方法です。
相手がローンを払わなくなった場合、自分に全額請求が来ます。
それに、「”離婚後も共有名義のまま”の7つデメリット」でご案内した通り、 共有名義のままはデメリットが多いです。
それでも実施する場合は、公正証書で詳細な取り決め(ローン返済の負担、将来の売却条件など)を残しておいてください。
まとめ
離婚の際、共有持分の家を売却するなら、離婚の話や別居をする前までです。
共有名義のままだとデメリットが大きいので、解消をしてください。
