「共有持分を譲渡する方法を知りたい」
「譲渡にかかる税金や費用はどのくらい?」
このように考えていませんか?
この記事では、共有持分の譲渡について、プロが分かりやすくご案内しています。
目次
共有持分の譲渡とは?
譲渡とは、権利などを他人に移転することです。
共有持分とは、複数人で所有する不動産における各人の所有権の割合のことです。

「共有持分の譲渡(=所有権の譲渡)」という言葉には、広義の意味と狭義の意味の2種類あります。
- 広義の譲渡…自分の共有持分を他者へ移転させる行為(売却、贈与、放棄、分割)
- 狭義の譲渡…共有持分を第三者へ売却すること
共有持分の譲渡方法は次の通りです。
| 譲渡方法(該当の条文) | 概要 |
|---|---|
| 売却(206条) | 売買契約により、自分の共有持分を第三者または他の共有者へ有償で譲り渡す方法 |
| 贈与(549条) | 自分の共有持分を無償で他者に譲る方法 |
| 放棄(255条) | 自らの共有持分を放棄して手放す方法 ※広義では「譲渡」に含まれ、他の共有者に権利が移る(贈与と同様の扱い) |
| 分割(256条) | 共有関係を解消し、各共有者に単独の財産または現金を分配する方法 |
自分の共有持分だけなら、各共有者が単独で実行できます。
ただし、不動産全体の場合は共有者全員の合意が必須と民法251条で規定されています。
-
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
広義の共有持分の譲渡には、5つの方法があります。
あなたがお考えの譲渡に該当する内容をチェックしてみてださい。
【方法①】共有持分を第三者へ売却する
第三者への売却とは、共有者以外の買取業者などに、自分の持分だけを売る方法です。

ここからは、この方法について、次の内容をご案内いたします。
- メリット、デメリット
- 流れや必要な書類、費用
売却のメリット・デメリット
この方法のメリットは次の通りです。
- スピーディに現金化できる
- 複雑な法的手続きが不要
- 共有者との直接交渉を避けられる
デメリットは次の通りです。
- 売却価格が低い(市場価格の30%~50%)
- 一般の不動産会社では取り扱いを断られる
- 買取業者の中には悪質・悪徳な業者がいる
- 他の共有者との関係が悪化する可能性がある
売却価格が低い理由は、共有持分だけでは単独で利用できず、トラブルになる可能性も秘めているからです。
持分の売却価格の計算式は、「物件全体の市場価格価 x 持分割合 x 30~50%」です。
例えば、3,000万円の不動産を4分の1所有している場合、その持分の売却価格の目安は約225万〜375万円です。
より詳しくはこちらの「共有持分の買取をプロが解説!」でご案内していますので、ご覧になってください。
売却の流れ・必要書類・費用
| 流れ | 概要 |
|---|---|
| ① 専門業者を選ぶ | 買取実績・口コミ・スピード対応を基準に選定する |
| ② 査定・価格交渉を行う | 現地調査後に買取価格を提示される |
| ③ 契約と登記を行う | 契約の締結後、業者が登記手続きを代行する |
手続きの大半は業者が代行します。
そのため、専門業者に依頼すれば最短数日で現金化できます。
| 必要書類 | 概要 |
|---|---|
| 登記申請書 | 法務局の様式に従って作成 |
| 売買契約書 | 売買の事実を証明する重要書類 |
| 登記識別情報 | 12桁の英数字で記載されている権利証 ※登記済証(権利証)でもOK |
| 固定資産税評価証明書 | 市区町村の税務課で取得可能 |
| 売主の印鑑証明書 | 発行から3か月以内のものが必要 |
| 買主の住民票 | 新しい所有者の住所を証明する書類 |
手続きが完了するまで1〜2週間程度かかります。
かかる費用は次の通りです。
| 費用・税金 | 目安 |
|---|---|
| 登録免許税 | ・固定資産税評価額×持分割合×2% ※土地の売買には軽減税率1.5%軽減措置があり (適用期限:令和9年3月31日まで) |
| 司法書士報酬 | 5~10万円程度 |
| 書類取得費用 | 印鑑証明書、住民票、固定資産税評価証明書など |
| 収入印紙代 | 売買契約書の売買代金に応じた金額 |
この他に、譲渡所得税がかかることがあります。
譲渡所得税とは、不動産を売って得た利益に対して課される税金のことです。
【方法②】共有持分を他の共有者へ売却する
共有持分を他の共有者へ売却することができます。

例えば、上のイラストでは、3人(兄、弟、妹)で均等に共有している戸建があり、妹が兄に持分を売却し、持分が兄3分の2、弟3分の1に変わっています。
この方法のメリットは次の通りです。
- 取引がスムーズに進みやすい
- 業者に売却するより高く売れる
- 第三者とのトラブルは無い
- 自由に活用できる
譲渡の結果、単独所有になれば、売却や建替え、賃貸経営、大幅なリフォームなどを自由に行うことができます。
売買時の価格は「不動産全体の価格 × 持分割合」で算出します。
例えば、3,000万円の不動産を4分の1所有している場合、買取業者に売却すると225万~375万円ですが、共有者の場合は約750万円です。
もしくは、当事者間の合意で自由に決めます。
デメリットは、次の通りです。
- 時価の80%未満の場合は、贈与税が課税(10%~55%)される可能性がある
- 価格交渉で揉めることがある
揉める理由は、身内や知人の間では「安くしてほしい」「相場より高く売りたい」といった感情が入りやすいからです。
| 流れ | 概要 |
|---|---|
| ① 売却価格を決める | 「不動産全体の価格×持分割合」で算出する |
| ② 売買契約書を作成する | 売買金額・支払い条件を明記し、署名押印する |
| ③ 代金を受け取る | 契約内容に従って代金を受領し、領収書を交付する |
| ④ 登記手続きを行う | 法務局へ必要書類を提出して名義を変更する |
手続きや税金に漏れが無いように、司法書士や税理士のサポートを受けることをおすすめします。
【方法③】共有持分を贈与する
贈与とは、財産を無償で相手に譲り渡すことです。
持分は、共有者以外の第三者へ贈与することもできます。

例えば、上のイラストでは、父が持分の一部(4分の1)を、兄(長男)に贈与した結果、持分が父2分の1、母4分の1のまま、兄4分の1に変わっています。
自分の持分だけを贈与する場合、他の共有者の同意は不要ですが、贈与契約が必要なので、受け取る相手の合意が必要です。
- メリット、デメリット
- 流れや必要な書類、費用
贈与のメリット・デメリット
この方法のメリットは次の通りです。
- 無償で譲渡できる
- 贈与相手を自由に選べる
- 相続対策の一環として活用できる
デメリットは、年間110万円を超える場合、贈与を受けた人には贈与税が発生することです。
例えば、評価額3,000万円の不動産があり、持分3分の1(1,000万円相当)を贈与すると、基礎控除110万円を引いた890万円に対して贈与税がかかります。
贈与税は10%~55%ですが、贈与者と受贈者の関係によって課税金額や控除額が異なります。
贈与の流れ・必要書類・費用
| 流れ | 概要 |
|---|---|
| ① 贈与契約書を作成する | 不動産の所在地・持分割合・贈与日を明記する |
| ② 贈与税の確認・申告を行う | 年間110万円を超える場合は翌年の2月1日~3月15日に申告を行う |
| ③ 持分移転登記を申請する | 法務局で名義変更手続きを行う |
口頭でも贈与は成立しますが、必ず贈与契約書を作成し、双方が署名押印して正式な契約としてください。
理由は、書面を残さないと「本当に贈与があったのか」という争いに発展することがあるからです。
-
父が3,000万円相当の不動産の持分を長男に贈与した。
この際、次男をはじめ周りに伝えることも、贈与契約書を作成することもなかった。
そのため、父の死後、次男が「単に名義が兄の名前になっているだけで、実際は父のものだから、遺産として兄弟で1,500万円ずつ分けるべき」と主張した。
兄は「贈与はあった」と主張するが、証明するものが無かった。
遺産分割協議では解決せず、兄弟間で訴訟になった。
贈与の際の持分移転登記で必要な書類は次の通りです。
| 必要書類 | 概要 |
|---|---|
| 登記申請書 | 法務局の様式に従って作成 |
| 贈与契約書 | 贈与の事実を証明する重要書類 |
| 登記識別情報 | 12桁の英数字で記載されている権利証 ※登記済証(権利証)でもOK |
| 固定資産税評価証明書 | 市区町村の税務課で取得可能 |
| 贈与者(譲渡人)の印鑑証明書 | 発行から3か月以内のものが必要 |
| 受贈者(譲受人)の住民票 | 新しい所有者の住所を証明する書類 |
持分移転登記にかかる費用の目安は次の通りです。
| 費用・税金 | 目安 |
|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産税評価額×持分割合×2% ※贈与には軽減措置が無い |
| 司法書士報酬 | 5~10万円程度 |
| 書類取得費用 | 印鑑証明書、住民票、固定資産税評価証明書など |
| 収入印紙代 | 不要(贈与契約書は課税文書ではないため) |
売買時との違いは、贈与では軽減措置が適用されないここと、印紙代が不要なことの2点です。
【方法④】共有持分を放棄する
自分の持分を手放す方法です。
放棄した持分は、残りの共有者に自動的に移ります。

上のイラストでは、3人で均等に共有している実家がある状態で、妹が放棄した結果、残りの2人の持分が2分の1ずつになっています。
ここからは、この方法について、次の内容をご案内いたします。
- メリット、デメリット
- 流れや必要な書類、費用
放棄のメリット・デメリット
この方法のメリットは次の通りです。
- 管理や協議の負担から解放される
- 固定資産税や管理費の支払いが不要になる
デメリットは次の通りです。
- 受け取る共有者に贈与税が発生する可能性がある
- 他の共有者の協力が必要
- 金銭的なメリットが無い
- 持分移転登記に費用がかかる
先ほどもご案内した通り、受け取る共有者の持分価値が年間110万円を超えると贈与税がかかります。
放棄は、自分の持分だけを手放す行為のため、単独で実行できます。
ただし、所有権移転登記が必要なため、他の共有者の協力が無いと完結しません。
放棄する前に、一度、持分を売却することをご検討ください。
放棄の流れ・必要書類・費用
| 流れ | 概要 |
|---|---|
| ①放棄の意思を伝える | 放棄することを他の共有者に伝える |
| ②持分移転登記 | 法務局で名義変更の手続きをおこなう |
持分移転登記には共有者の署名や印鑑証明書などが必要です。
また、次の費用がかかります。
| 費用・税金 | 目安 |
|---|---|
| 登録免許税 | ・固定資産税評価額×持分割合×2% ・放棄には軽減措置が無い |
| 司法書士報酬 | 5~10万円程度 |
| 書類取得費用 | 印鑑証明書、住民票、固定資産税評価証明書など |
| 収入印紙代 | 不要(放棄には契約書が不要なため) |
より詳しくは、こちらの「共有持分の放棄とは?」でご確認をお願いいたします。
登記引取請求訴訟とは、協力しない相手に登記名義を引き取らせる裁判手続きのことです。
訴訟にかかる費用は次の通りです。
| 費用 | 概要 |
|---|---|
| 裁判所手数料 | 訴額に応じた収入印紙代 |
| 弁護士費用 | 着手金20~30万円+成功報酬 |
| 司法書士費用 | 登録免許税・報酬・実費を含めて10~20万円程度 |
| 書類取得費用 | 印鑑証明書、評価証明書などの発行手数料 |
例えば、評価額2,000万円の不動産で持分4分の1(500万円相当)を放棄する場合、裁判所手数料は約3万円、弁護士費用と司法書士費用を合わせて総額40〜60万円程度かかります。
【方法⑤】共有持分を分割する
共有物の分割とは、共有関係を解消し、各共有者に単独の財産(不動産や現金)を分配することです。
分割方法は次の3つです。
- 現物分割…不動産を物理的に分けて、各共有者がそれぞれ単独で所有する方法
- 代償分割…特定の共有者が不動産全体を取得し、他の共有者に金銭を支払う方法
- 換価分割(かんかぶんかつ)…不動産を売却して、その代金を共有者で分け合う方法
各分割のメリット・デメリット
| 分割方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| ❶現物分割 | 単独名義の不動産を取得できる | 建物では難しく、土地のみ可能なケースが多い |
| ❷代償分割 | 単独所有したい人と現金化したい人の双方に利益がある | 複数の共有者が単独所有を希望すると成立しない |
| ❸換価分割(かんかぶんかつ) | 不動産全体を売却して公平に現金を分配できる | 家や土地を手放すことになる |
現物分割は単独名義になるため自由に活用できますが、分筆をする必要があります。
分筆とは、1つの土地を2つ以上の土地に分割することです。

測量などの費用が数十万円~かかります。
代償分割は「住み続けたい」「残したい」という人と「現金化したい」という人の両方の希望が叶いますが、取得者に十分な資金力が必要です。
換価分割は、持分単体より高額で売却できるため、多くのケースで選択されます。
分割の流れ・必要書類・費用
| 流れ | 概要 |
|---|---|
| ① 分割方法を協議する | 現物分割・換価分割・代償分割のいずれかを決める |
| ② 協議書を作成する | 内容をまとめ、全員の署名押印で成立させる |
| ③ 測量・分筆を行う(現物分割の場合のみ) | 土地の場合は土地家屋調査士が測量を実施する |
| ④ 名義変更登記を申請する | 法務局で移転や分筆の登記を行う |
必要書類は次の通りです。
- 共有物分割協議書
- 登記識別情報通知書
- 共有者全員の印鑑証明書
- 共有者の住民票
- 固定資産税評価証明書
費用の目安は次の通りです。
| 費用 | 概要 |
|---|---|
| 登録免許税 | ・現物分割の場合…不動産1個につき1,000円 ・代償分割・換価分割の場合…固定資産税評価額の2%前後 |
| 司法書士報酬 | 5〜10万円 |
| 土地家屋調査士報酬(現物分割のみ) | 10〜30万円 |
協議がまとまらない場合は地方裁判所で「共有物分割請求訴訟」を提起します。
裁判分割は解決までに半年〜1年半かかるため、なるべく早期に話し合いをまとめてください。
共有持分を譲渡するときのトラブルと防止策
トラブルが起こるのは次の間柄です。
- 譲渡する人と他の共有者
- 譲渡する人と買取業者
- 他の共有者と買取業者
詳しくご案内します。
❶譲渡する人と他の共有者のトラブル
| トラブル例 | 概要 |
|---|---|
| 人間関係が悪化する | 事前相談なしで勝手に第三者へ売却し、信頼関係が崩れる |
| 贈与で揉める | 一部の共有者だけを優遇したことに、他の共有者が反発する |
| 放棄で負担が増えて困る | 持分を放棄したことで、残った共有者の税金や管理負担が増える |
トラブルが起こる理由は、他の共有者への説明や配慮が欠けているからです。
予防法は次の通りです。
- 譲渡の前に、他の共有者へ必ず相談する
- 譲渡内容・影響・理由を丁寧に説明する
- 書面で内容を残し、言い争いを防止する
トラブルが起こった場合の対策は次の通りです。
- 弁護士や司法書士に同席してもらう
- 他の共有者と話し合いの場を設ける
- 必要であれば調停を検討する
❷譲渡する人と買取業者のトラブル
| トラブル例 | 概要 |
|---|---|
| 売却価額が不当に安い | 相場より極端に低い金額で買い叩かれる |
| 契約条件の変更で揉める | 契約前後に費用や条件を変更される |
トラブルが起こる理由は、業者選びを慎重に行っていないからです。
共有持分の買取を扱う業者の中には、悪質・悪徳な業者もいます。
例えば、市場価格3000万円の不動産の2分の1を買取業者に売る場合、450万~750万円ですが、225万~375万を提示されるといことです、
また、売却後に「雨漏りがあった」「シロアリの被害を見つけた」といって引き渡し後に修繕費を請求してくるといったこともあります。
予防法は次の通りです。
- 複数の業者に査定を依頼し、価格を比較する
- 実績や口コミ、行政処分歴を調べる
- 契約条件・支払い方法・登記時期を必ず書面で確認する
- 司法書士など第三者に契約内容を確認してもらう
対策は次の通りです。
- 消費生活センターに相談する
- 弁護士を通じて、業者に契約内容の変更や取り消しを求める
より詳しくは「共有持分の買取業者とのトラブル5つと回避法」をご確認ください。
❸他の共有者と買取業者のトラブル
| トラブル例 | 概要 |
|---|---|
| 新しい共有者と揉める | 業者が管理や意思決定に参加せず、残る共有者が困る |
| 税金・管理費の未払いで揉める | 業者が負担を怠り、他の共有者に請求が及ぶ |
| しつこい営業を受ける | 朝晩に関わらず、電話をかけてくる 突然、訪問してくる |
トラブルが起こる理由は、信頼できない業者を選んでしまうからです。
予防法は次の通りです。
- 譲渡(売却)前に他の共有者へ状況を説明し、同意を得る
- 売却する業者の実績や評判を事前に調査する
すでにトラブルになっている場合に「他の共有者」ができる対策は次の通りです。
- 弁護士に相談して業者との交渉を依頼する
- 裁判所に共有物分割請求を申し立てる
- 自分の持分を売却する
買取業者とのトラブルを避けるには、「共有持分の買取業者・仲介業者を選ぶ6つのポイント」をご覧ください。
共有持分の譲渡についてのまとめ
共有持分の譲渡には「売却・贈与・放棄・分割」の4つがあり、それぞれ税金や手続きが異なります。
トラブルを避けるためにも、専門業者や司法書士に相談しながら慎重に進めてください。
