親が認知症になる前に知っておきたい不動産売却の罰則リスクとトラブル回避策

親が認知症を発症した後に不動産を売却しようとすると、想定外のトラブルや罰則リスクに直面する可能性があります。実際には、早い段階で売却を検討し、意思能力を証明できる環境を整えることが大切です。売買契約をスムーズに進めることで、家族の負担を軽減し、将来的な相続や財産管理を円滑にする効果も期待できます。

認知症があるかどうかが微妙な時期に不動産を売る場合は、安易に契約を結んでしまうと、後から契約無効や違約金などの問題に巻き込まれがちです。この記事では、罰則リスクを避けるための注意点や手続きのコツ、専門家を活用するメリットなどを詳しく紹介します。早めの対策で、トラブルなく大切な不動産を売却できる状況を作り出しましょう。

この記事の作成者

康原 工偉智Koichi Yasuhara

共有持分支援協会の代表相談員
大阪府出身。プロ野球選手を夢見て、名門PL学園から亜細亜大学に進学。度重なるケガでプロの夢を諦めるも、大手不動産会社に就職。持ち前のバイタリティで営業成績もトップクラスを誇る。共有持分を買取る投資家、不動産業者とのパイプも太い。

1.認知症がある親に生じる不動産売却の罰則リスク

意思能力が不十分なまま契約を進めると、後に契約無効や違約金など厳しい罰則に接する可能性があります。初めに、認知症と売却行為の関係を把握し、どのようなトラブルが発生しやすいかを理解しましょう。

1-1.高齢者の意思能力が問われる背景

高齢になると、認知症を含むさまざまな症状により意思能力が低下するリスクが高まります。法律上の契約は、当事者がその内容を理解し、合理的な判断ができることが前提です。親が認知症の診断を受けていなくても、取引時点で契約内容をしっかり理解できない状態にあれば、後から契約そのものが無効とされる場合があります。

意思能力を確認するためには、医師による診断書や面談記録などを用意する方法が一般的です。特に、高齢者の判断力が疑われるケースでは契約行為を慎重に進める必要があります。家族がしっかり観察し、普段とは違う言動や物忘れが増えているなら、事前に専門科を受診するなど早めの対策が望まれます。

1-2.契約が無効になるパターン

認知症の程度によっては、契約を結んだとしても「そもそも意思能力がなかった」とみなされて後に無効になる可能性があります。以下のような契約無効例についてまとめます。

契約無効となるケース 必要な証拠 注意ポイント
重度の認知機能低下 医師の診断書 契約締結時期の様子を詳細に記録
契約内容の重大な不備 売買契約書、重要事項説明書 当事者の合意が成立していたか検証

このように、売却契約が遡って無効となると、売主・買主双方に大きな損失が生じる可能性があります。特に、認知症の親が自ら取引した場合は「契約を理解していなかった」と主張されやすく、トラブルが長期化することもあります。親族や専門家が適切に助言をするなど、防止策をとっておくことが重要です。

1-3.違約金が発生する可能性

認知症の有無にかかわらず、不動産売買契約を一度結ぶと、買主側が既に準備を進めているケースも多いです。そのため、契約締結後に「やっぱり売れません」となると、高額な違約金を請求される可能性があります。認知症を理由に契約無効を主張しても、法律上の手続きが順調に進まなければ、売主が損害賠償責任を負う場面もあります。

違約金の金額は契約書や法律で定められることが多く、不動産の価値に比例して大きくなるため注意が必要です。契約前に売却の意思を固めることが、余計な費用を負担しないための第一歩といえます。

2.認知症で起こりやすい売却トラブルを防ぐコツ

認知症の疑いや症状がある親が不動産を売る際には、通常よりも細かい確認や早めの対応が求められます。ここでは、具体的に気をつけるポイントを整理します。

2-1.売買契約書の確認方法

不動産売却では、売買契約書に物件の情報や契約条件が明記されます。すでに認知機能が低下している場合、文字の内容を理解するだけでも負担になることがあります。そこで、契約締結前に専門家や家族が付き添って内容を分かりやすく説明することが大切です。

また、売買契約書には「引き渡し日」や「支払い条件」など大切な要素が多く含まれます。認知症の進行状況によっては、契約の読み合わせや書面へのサインに付いていけないケースも考えられます。印鑑を押す前に、公正証書などで補強する方法や、契約書のポイントを箇条書きにまとめておく工夫も役立ちます。

2-2.物件の状態を正しく伝える大切さ

買主との間で「契約不適合責任」が争点になると、最悪の場合、損害賠償請求や契約解除につながることもあります。特に、認知症の親が暮らしていた建物だと、リフォームや大きな修繕をしないまま長年住み続けている場合があるため、どの部分を修繕したかあいまいになりやすいです。

そこで、売り手側が物件の欠陥や修繕履歴をしっかり把握し、買主へ事前に十分な説明を行うことが必要です。古い物件なら雨漏りや設備の交換歴について詳細を調べ、少しでも不安がある点は契約前に共有しましょう。買主が納得した上で売却が成立すれば、後々の揉めごとを大幅に減らせます。

2-3.立ち退きに関する注意点

認知症の親が住んでいる物件を売る際、買主が入居を予定している場合には立ち退きが発生するかもしれません。正当な事由がないまま退去を求めると、居住者の権利を侵害してしまいトラブル化しやすいです。もし、どうしても引っ越ししてもらう必要があるなら、立ち退き料の支払いを検討する手段があります。

立ち退き料の相場は部屋の広さや地域によって変動がありますが、引越し費用や新居の敷金・礼金などを含めて計算することが望ましいです。立ち退き交渉が長引くと売却のタイミングが大幅にずれるため、買主とのスケジュールも含め、冷静に話し合いを進めることが肝心です。

3.不動産売却時に役立つポイント

認知症のリスクがある親が不動産を売る場合、デメリットばかりではなく、適切に手続きを踏めばさまざまなメリットがあります。スムーズな売却を可能にし、将来的な負担を軽減する効果が期待できます。

3-1.専門家のサポートによる安心

不動産会社や弁護士、司法書士などの専門家は、高齢者や認知症を抱える家族が売却を検討するときに多角的なアドバイスをしてくれます。専門家を交えることで書類作成や交渉がスムーズに進むだけでなく、必要に応じて成年後見制度の利用など法的な助言を受けることもできます。

特に、認知症の症状が進行して契約手続きが難しい場合でも、後見人が代理として対応できれば大きなトラブルを回避しやすくなります。親族が書類を確認しながら協力することで、手続きの漏れや不正を防ぎ、心理的な負担も軽くなるでしょう。

3-2.市場価格を守るための工夫

認知症を理由に、買主や仲介業者に足元を見られて相場よりも極端に低い価格を提示される事例は少なくありません。しかし、きちんと相場や物件のコンディションを理解しておくと、適正な価格で売却を進められます。複数の不動産会社に査定を依頼し、比較するステップを踏むことで、相場を大幅に下回るリスクを下げられます。

売却価格が下がりすぎると、将来の介護費用や生活費などに影響が出るかもしれません。あらかじめ必要な資金を計算した上で売却プランを立てると、家族全員が安心して資金を活用できるでしょう。

3-3.将来の相続対策にも貢献する

親が健在なうちに不動産を売却するメリットとして、遺産相続の手続きを簡略化できる点が挙げられます。不動産が遺産として残ると、複数の相続人で共有せざるを得なかったり、相場の変動に左右されたりして揉めるケースが多いです。事前に売却しておけば、現金として分配しやすくなり、相続トラブルの発生を抑えられます。

また、認知症の親の介護費用や施設入居費用を捻出するために、不動産の売却代金を活用できる可能性があります。将来的な資金計画を見据えて売却を決めると、親自身も子どもたちも負担を減らすことにつながります。

4.認知症リスクを踏まえた売却時のデメリット

認知症を抱える中での不動産売却は、さまざまなメリットがある一方で、それなりのハードルも伴います。事前に把握して対策を講じることで、失敗を最小限に抑えられます。

4-1.裁判所の許可が必要な場合

成年後見人がついている認知症の親の不動産を売却する際には、家庭裁判所の許可が必要です。この許可を受けずに処分してしまうと、売買行為そのものが無効とされることもあるため、家族がうっかり手続きを省略するのは大変危険です。許可申立て手続きに時間を要する可能性があるので、余裕を持って進めなければなりません。

後見人の立場からすると、親の資産を守るために慎重に審査を行います。売却理由や価格が適正であるか、将来的な介護費用の確保に問題はないかなど、幅広くチェックされるため、書類不備があると手続きが完了しません。時間や費用面で負担がかかる点は、覚悟しておく必要があります。

4-2.家族間の意見対立が発生する懸念

不動産は高額かつ思い出の詰まった財産であり、家族の意見が割れることは珍しくありません。認知症の親が「売りたくない」と主張しているにもかかわらず、ほかの家族が同意のもとで売却を進めようとすると感情的な対立に発展する可能性もあります。

さらに、兄弟姉妹が複数いる場合は「売却後の資金をどう分割するか」でトラブルが起こりやすいです。認知症の進行度合いに応じて、親の意思をどう尊重するか、誰が最終的に決定権を持つか、よく話し合って方向性を一致させることが大切です。

4-3.契約不適合責任を問われる可能性

認知症の親が自力で記憶や書類管理を行うことは難しく、物件に不具合があっても正確に把握していないケースがあります。後から水回りのトラブルや雨漏りなどが発覚し、買主側から契約不適合責任を問われると、修補費用や損害賠償を請求されることもあるでしょう。特約で期間を短縮している場合には、売主が思わぬ負担を負うリスクも高いです。

一度契約不適合が疑われると、売主はその原因についても追及されるため、認知症の有無が争点になることもあります。証拠の準備や物件調査が後手に回ると余計に時間がかかるため、売却時にはしっかり情報を整理しておくことが無難です。

5.トラブルを回避する方法

不動産売却の成功は、誰に依頼するか、どのような書類を揃えるか、どの時期に実行するかといった選び方によって大きく変わります。ここでは、認知症リスクを踏まえた売却時の重要な選択ポイントを解説します。

5-1.信頼できる仲介業者の探し方

認知症への理解が進むなか、業者の中には高齢者向けのサポートに力を入れているところもあります。選び方のコツとしては、複数の業者に問い合わせて比較検討する方法が挙げられます。初回の相談で疑問点にしっかり答えてくれない、強引に契約を急かしてくる業者は避けたほうが無難です。

また、過去に高齢者の売却案件を扱った実績や、成年後見の手続きに関する知識があるかどうかを確認するのもポイントです。担当者が親身になってくれることで、認知症の親も安心して手続きを進められます。

5-2.診断書を活用した意思能力の証明

認知症が疑われる親が契約手続きに参加する場合、「後から本人が理解していなかった」と主張される懸念を払拭する手段として、医師の診断書や診療録(カルテ)を準備する方法があります。受診したうえで医療者の客観的な評価を得られれば、契約時点で意思能力を保っていたと示しやすくなります

ただし、軽度認知症など症状が一時的だったり、日によって波がある場合は診断書だけで十分な証明とならないこともあります。契約当日の状況を録画し、説明を受けている姿を記録するなど、念には念を入れた対策をとることが安心です。

5-3.早めの準備と周囲への相談

不動産の売却を検討し始めるとき、新たに施設入居や同居といったライフプランが関わってくる場合が少なくありません。認知症のリスクが高い親ほど、意思決定がスムーズに進まない可能性があります。そこで、早めに家族会議を開き、全員が状況を共有することが大切です。

周囲へ相談しておくと、専門家の紹介を得られたり、より良い売却タイミングを提案されることもあります。金融機関でローン残債の確認をするなど、事前準備をしっかり行うことで、認知症が進行してから慌てずに済むでしょう。

6.まとめ

認知症のある親が不動産を売却するには、意思能力や手続き上のリスクなど考慮すべき重要事項が多く存在します。早めの準備と専門家の協力で、契約不適合責任や違約金などの罰則リスクを回避しながらスムーズに売却を進めることが可能です。最後は家族同士でしっかり話し合い、安心できるステップを踏むのがおすすめです。