トラブルを防ぐ!不動産相続で押さえておきたい遺留分の基本ポイント

この記事の作成者

康原 工偉智Koichi Yasuhara

共有持分支援協会の代表相談員
大阪府出身。プロ野球選手を夢見て、名門PL学園から亜細亜大学に進学。度重なるケガでプロの夢を諦めるも、大手不動産会社に就職。持ち前のバイタリティで営業成績もトップクラスを誇る。共有持分を買取る投資家、不動産業者とのパイプも太い。

遺留分を知る大切な理由

相続で最低限の取り分を確保する遺留分は、家族構成や生前贈与の有無などで計算が大きく変わる重要な制度です。将来の争いや生活不安を避けるためにも、基本的な仕組みを押さえておくことが欠かせません。

1-1. 保障される最低限の権利

遺留分は、特定の相続人に対してどうしても確保してあげなければならない最低限の取り分です。なぜ最低限かというと、もし遺産の多くが特定の人物に譲られる内容の遺言があったり、生前贈与でほとんどの財産が移動していたりしても、全くのゼロという状況を避けるために設けられている仕組みだからです。

たとえば配偶者が高齢で収入源が少ない場合、相続により全財産を失ってしまうと生活が成り立たなくなるケースがあります。そこで遺留分は家族の生活保障を支える制度として、大きな支えになっています。被相続人の兄弟姉妹だけは遺留分を持たない点も特徴で、その他の相続人にはこの権利が認められます。

不動産が相続財産に含まれる場合は、その評価額によって遺留分の金額が大きく変動することがあり、思わぬ相続争いに発展することもあります。しっかりした情報収集が大切です。

1-2. 遺留分の計算式をイメージする

遺留分を求める際には、まず相続開始時の財産価額をベースに考えます。具体的には、被相続人の残した純財産(プラスの財産から債務を差し引いた値)だけでなく、1年以内の特別な生前贈与や特別受益も加味する仕組みです。こうして総体的な価額を算定しておき、そこに遺留分割合を掛けて概算を出します。

遺留分割合は、基本的には法定相続分の半分とイメージすると分かりやすいです。ただし相続人が直系尊属のみの場合は3分の1になるなど、家族構成によって変わります。最終的に個別的遺留分を割り出すためには、総体的遺留分の中で具体的な法定相続分を再度考慮して配分する形になります。

たとえば財産総額が5,000万円、債務が1,000万円、過去に1,000万円の生前贈与があったとすると、「財産総額5,000万円-債務1,000万円+生前贈与1,000万円」の計5,000万円を遺留分算定のベースにして計算する流れになります。そこに遺留分割合を掛け、続いて各相続人の法定相続分で割合に応じて分けるのが一般的な手順です。

1-3. 家族構成別の遺留分割合

家族構成によって遺留分の割合や計算結果は大きく変わります。配偶者と子がいるケースでは、まず総体的遺留分の2分の1が全体に割り当てられ、そこから法定相続分に従って配偶者や子へ分配されていきます。子どもが二人いるなら、子どもそれぞれの取り分は等分されます。

一方、被相続人に子どもがおらず、親のみが相続人となる場合は遺留分割合が3分の1です。また配偶者だけが相続人になるケースでは2分の1となり、残りの財産については遺言の内容によって自由に処分できる余地が広くなります。

持ち家などの不動産を共有していると、遺産分割の段階で評価額や共有名義の扱いをめぐり意見がぶつかることがあるため、早めに各自の遺留分を見極めておくことが円滑な相続につながります。

不動産評価の選択肢

不動産の評価は遺留分の額を左右する大きな要素です。複数の評価方法が存在し、どれを採用するかで金額に驚くほど差が出る場合もあるため、慎重な選択が求められます。

2-1. 固定資産税評価額や路線価の見方

固定資産税評価額とは、毎年市区町村が課税のために評価した金額です。実勢価格に比べると低めに設定される傾向がありますが、税金算定の基準として一般的に使われています。また、路線価は国税庁が公表するもので、主要な道路に面する土地の1平方メートルあたりの評価額が分かる仕組みです。

路線価は相続税や贈与税を算出する際の指標になることが多く、固定資産税評価額よりも実勢に近いケースがあります。ただし、実際の取引価格とは必ずしも一致しません。特に都市部では地価が年々変動しているため、最新の公示情報に注意する必要があります。

持ち家の土地部分を考える際、路線価だけを参考にするのではなく、全体的な地勢や接道状況、建物の評価も含めて総合的に判断するとより実態に近い評価がしやすいです。そこから自分の遺留分が具体的にどのくらいの金額になるかをシミュレーションしておくと安心です。

2-2. 公示地価や不動産鑑定評価も活用

公示地価は、国土交通省が毎年公表する土地の価格を示す基準で、市場の実勢に近いといわれます。この公示地価を参考に都道府県地価調査などを合わせて考慮し、土地の評価を行うと、より正確な数値を出せる場合があります。

最も精度が高いとされるのは不動産鑑定士による鑑定評価です。専門家が現地調査や法規制、周辺の取引事例を総合的に分析し、適正価格を算定してくれます。ただしその分費用がかかるため、相続の規模や財産構成を踏まえて依頼するかどうか検討するのが良いでしょう。

評価方法 特徴
固定資産税評価額 課税ベース。実勢価格より低いことが多い。
路線価 相続税・贈与税計算に利用。地域や道路ごとに設定。
公示地価 国が公表する基準地の価格。実勢にやや近い。
不動産鑑定評価 鑑定士が総合的に算出。最も詳細だが費用がかかる。

こうした複数の評価基準を比較したうえで、最適な方法を選択することが大切です。不動産のコンディションや市場動向も加味すると、より納得感のある評価を得られます。

2-3. 思わぬ評価額の変動リスク

不動産は地価の変動が激しいエリアだと、相続時期によって大きく評価が変わってしまう場合があります。土地の上に建つ建物が古いままだと建物部分の評価は下がりますが、土地自体の価格が上がるケースもあるため、合計額が思ったほど下がらないこともあるのです。

また、都市再開発やインフラ整備、周辺環境の変化などで大幅に地価が上昇することも考えられます。見落としがちですが、これによって評価額が予想より高騰し、相続人同士の話し合いが難航するケースも珍しくありません。将来的な地域計画や都市開発の情報を事前にチェックするのもポイントです。

評価額が高くなれば遺留分を現金で支払う場合の負担が増えることもあります。評価の見込み違いで金銭トラブルにつながらないよう、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることが大切です。

不動産相続で得られるメリット

不動産を相続することには、金融資産を相続するのとは異なる独自のメリットがあります。家族の状況や将来の見通しによっては、土地や建物を活かした相続プランが有効に機能するケースもあるでしょう。

3-1. 資産としての安定性

不動産は景気の影響を受けやすいとはいえ、長期的には価値が安定しやすい側面があります。特に都市部や交通アクセスの良い場所なら、売却や貸し出しによる収益が見込みやすく、現金資産を眠らせるよりもメリットを享受できる可能性が高まります。

持ち家を相続する際も、長年住み慣れた住宅を引き継いで暮らしていける安心感があります。同時に遺留分の権利を主張する側との共存を図らなければならないこともあるため、「誰が不動産をどのように使うのか」を家族全員で話し合う余地が生まれます。

不動産を所有していると、固定資産税などの維持コストもかかりますが、資産価値をうまく維持できれば将来の選択肢は決して少なくありません。

3-2. 相続税対策への効果

現金や預金などの金融資産を多く持っている場合、相続時に課税額が大きくなる傾向があります。これに対し、不動産を所有していると評価額が土地や建物として計算されるため、純粋な現金額より低く評価されることがしばしばあります。

また、小規模宅地等の特例制度が適用されるケースでは、住居用や事業用の土地の評価額が大きく減額される可能性があり、結果的に相続税の負担を抑えられることがあります。したがって、不動産を活用して上手に節税を目指す人も少なくありません。

ただし、特例を受けるには細かな要件があり、所有者や相続人の居住実態などが影響する点には注意が必要です。専門家と相談しつつ、家族構成や将来の住まい方を念頭に置きながら検討するとよいでしょう。

3-3. 将来的な活用や売却の可能性

不動産を相続してしばらくは居住用に使い、後から売却して別の資金に回すことも選択肢の一つです。相続直後は相場が低迷していても、何年か様子を見て価格が上昇したタイミングで売却すれば、結果的により多くの利益を得られるかもしれません。

また、建て替えを行って賃貸物件として運用する方法もあります。特に駅から近い土地などは需要が高いため、安定した家賃収入が見込める可能性があります。ただし、共有人数が多い場合は意思決定がスムーズに進みにくいこともあるので注意が必要です。

相続した不動産をどう活用するかは、家族の意見を総合的に取り入れて決めるのがおすすめです。将来的に資産を増やす方法の一環として、不動産を手放さず保持していく戦略も検討してみる価値があります。

遺留分を巡る注意点

遺留分は非常に重要な権利ですが、その行使や計算に関していくつかの注意点があります。時効や家族間の調整などを見落とすと、トラブルが大きくなるリスクがあるため、早期に把握しておくことが大切です。

4-1. 請求期限を踏まえた迅速な行動

遺留分には請求できる期限があります。自分の遺留分が侵害されていると知った時から1年間が基本的なタイムリミットです。この期間を過ぎると、遺留分侵害額請求ができなくなる可能性があります。

たとえば、後になって「もっと早く権利を主張していればよかった」と気づいても、期限が切れてしまっていれば手続き上は難しくなるのです。そのためなるべく早い段階で専門家の意見を聞くほうが安心です。

状況によっては、他の相続人と話し合ったり書類を取り寄せたりと、時間がかかる作業が必要になります。期限を念頭に置いて行動すれば、落ち着いて対応できるでしょう。

4-2. 遺留分侵害によるトラブル事例

遺言書で「全財産を特定の相続人に渡す」と定められていた場合など、他の相続人が遺留分を主張するとかなりの金額を返還または金銭で支払う必要が出てきます。話し合いがこじれると、人間関係に深刻な亀裂が入るかもしれません。

また、不動産を一人が単独で相続しようとした際、ほかの相続人が現金で遺留分相当額を請求するケースもあります。財産が不動産だけだと容易に現金化できない場合がありますので、相続前に換金計画や資金調達の方法を考えておくのも大切です。

結果的に調停や訴訟に発展することも珍しくないため、冷静なコミュニケーションが重要になります。早期に意見を出し合って和解策を探るか、専門家を交えた話し合いを進めるかなど、具体的な対応を考えましょう。

4-3. 家族間調整や専門家のサポート

遺言書の内容が複雑だったり、不動産の評価に納得がいかない場合などは、家族だけで解決しようとしてもうまくいかないことが多いです。そうしたときは弁護士や司法書士、税理士などの専門家のサポートを検討するとよいでしょう。

特に不動産は地価変動や共有名義などによる問題が生じやすいため、専門家の視点を取り入れることで適正な評価とスムーズな分割が実現しやすくなります。また、家事調停を利用して家庭裁判所の調停委員に仲裁してもらう方法もあります。

家族間の話し合いを円滑に進めるためにも、自分自身の知識を増やしつつ、必要に応じて第三者の力を借りると、トラブルを最小限に抑えられます。

不動産相続の選び方を考える

不動産相続の進め方は、各家庭の事情や財産構成、遺言書の有無によって大きく異なります。家族全員が納得して相続できるよう、下準備と適切な調整を行うことが重要です。

5-1. 法定相続分を踏まえた交渉

相続が開始された場合、まずは法定相続分をひとつの目安として議論を始めるのがおすすめです。たとえば配偶者が2分の1、子どもが残りを分け合うという基本形があるため、その大枠をベースに話し合えば、誰がどの程度の権利を持っているのかが明確になります。

ただし、実際には「不動産は現状維持がいい」「現金のほうがいい」など、相続人それぞれの希望が異なります。そこで、まずは全員の意向を聞いたうえで、どのように分割すると良いかを具体的に検討していきましょう。有意義な交渉を重ねることで、遺留分を踏まえながら合意を目指しやすくなります。

5-2. 関係者が納得しやすい譲渡方法

不動産を一部の相続人が取得して、ほかの相続人には金銭を渡す形を「代償分割」と呼ぶことがあります。これによって、共有名義の煩わしさを避けつつ、相続人それぞれが自分の相続分に応じた価値を確保できるので、比較的納得が得やすいです。

また、不動産を売却して得た現金を法定相続分や遺留分に従って分配する方法も現実的です。固定資産税などの維持費がかからず、後々の売却手間や活用策を考える必要がなくなるメリットがあります。しかし家族にとって思い入れのある持ち家の場合、売却に抵抗がある人がいるかもしれません。

相続人の意見をすり合わせながら、どの方法なら円満に話がまとまるか考えていくと良いでしょう。最終的に譲渡が難しい場合には共有名義で持ち続ける手段も検討されますが、責任や費用負担の調整がより複雑になる点には注意が必要です。

5-3. 遺留分を意識した遺言作成

将来の相続トラブルをできるだけ避けたいという場合は、遺留分に配慮した遺言書を早めに作成することが重要です。特定の相続人だけに大量の財産がいくような内容を記載すると、他の相続人が遺留分請求に踏み切る可能性が高くなります。

遺言書を作成する際には、公正証書など正式な形式を取ると安心です。自筆証書遺言でも法務局への保管制度を利用することで安全性は高まります。さらに、生前贈与を行う場合も遺留分を侵害しない範囲で行うよう計画すると、後の紛争リスクを減らせます。

家族が揉めずに不動産相続を行うためには、遺言書に相続分の考え方や分割方法を明記するのがおすすめです。将来の家族構成の変化も見据えながら定期的に見直していくと、自分の希望を反映しながらトラブルを抑えられます。

まとめ

持ち家や土地などの不動産をめぐる相続では、遺留分をしっかり理解しておくことがとても大切です。不動産の評価方法にはいくつもの選択肢があるため、どれを使うかで遺留分の金額に差が出る場合も少なくありません。もし権利が侵害されていると感じたら、請求期限があるため早めに対応することが望ましいです。

また、相続人間の話し合いだけではうまく進まないときもあるので、弁護士や不動産鑑定士など専門家の助けを借りるのがおすすめです。トラブルを避けるために遺言書を用意しておくことも有力な方法の一つとなります。家族みんなが納得できる形を目指し、早めの準備と情報収集を心がけてください。