競売開始決定後でも諦めない!相続した不動産を守る取下げ対策とは

競売開始決定通知が届くと、突然の知らせに戸惑う方も多いでしょう。期限を意識しながら適切な手続きと連携を行えば、不動産を守る手段はまだ残されています。

少しでも不利な形で不動産を手放したくない方や、そのまま住み続ける道を模索している方に向けて、役立つ選択肢や専門家の活用方法を詳しくご紹介します。

この記事の作成者

康原 工偉智Koichi Yasuhara

共有持分支援協会の代表相談員
大阪府出身。プロ野球選手を夢見て、名門PL学園から亜細亜大学に進学。度重なるケガでプロの夢を諦めるも、大手不動産会社に就職。持ち前のバイタリティで営業成績もトップクラスを誇る。共有持分を買取る投資家、不動産業者とのパイプも太い。

競売取下げの基礎知識を押さえよう

競売開始決定後でも、適切な対策を取れば競売を取り下げられる可能性はあります。まずは競売の全体像や差押え、予納金といった基本的な用語や制度を整理することが大事です。

1-1.競売開始決定後の流れ

住宅ローンや税金を長期間滞納してしまうと、債権者は裁判所に競売を申立てます。裁判所が申立てを受理すると競売開始決定通知という書類が送付されます。これは「物件が競売手続きに入ります」という合図です。通知を放置すれば手続きは進み、最終的には強制退去の可能性もあるため、できるかぎり早めに行動しましょう。

競売開始決定通知が届いたあと、執行官による物件調査や不動産の評価が行われます。その後に裁判所が売却基準価額を定め、入札や開札の時期が決定されます。ここで、開札期日の前日までに任意売却や一括返済のめどが立てば、競売を取り下げることが可能といわれています。

1-2.差押えと抵当権の役割

融資を受けた際に設定した抵当権や、税金滞納があると差押えの登記がつきます。差押えと抵当権は共に債権者が権利を守るための仕組みです。しかし、差押え登記があると物件の売却にはハードルが生まれます。特に一般的な住宅ローンを組もうとする買主にとっては、抵当権や差押えが抹消されていない物件は審査が通りにくいためです。

差押え登記を消すには、その原因となった債務や税金を支払って抹消手続きを行う必要があります。一方、抵当権を消すにはローンの完済、もしくは任意売却時の売買代金を返済に回すことで抹消する流れです。こうした手続きを怠ると、任意売却自体がうまくいかず、競売にかけられるリスクが高まります。

1-3.予納金と返還のポイント

競売を申し立てた側、つまり債権者は、手続き開始時に裁判所へ予納金を納付します。これは執行官の調査費や広報費などの実費に充てられ、競売手続きが終われば残額が債権者に返還される仕組みです。取り下げる時期が早いほど、使われていない分の予納金が債権者に返ってくる可能性が高いといわれています。

債務者側にとっては直接関係ないように見えるこの予納金ですが、債権者に「取り下げを認めるメリット」を感じてもらうための材料にもなることがあります。債権者にとって早期の競売取り下げは費用を無駄にしないだけでなく、競売にかかる手間を省くメリットにもなり得ます。そのため、早めの交渉は非常に重要です。

任意売却で得られる2つのメリット

競売を取り下げることで実現できるメリットは、金銭面だけでなく、精神的な負担の軽減にもつながります。立場によっては物件を売却し、新しい生活をスタートしやすくなるケースもあるでしょう。

2-1.債務整理の負担軽減

競売よりも任意売却を選択したほうが、市場価格に近い値段で売却しやすいといわれています。競売は想定より大幅に低価格で落札されることが多く、残債の返済が厳しい状態に陥ることが少なくありません。任意売却であれば、売却後の負債を減らせる可能性が高くなるだけでなく、債権者との交渉しだいで月々の返済計画を立てることも可能です。

また、一括返済できる見込みがあれば、早い段階で全額を返済して競売を取り下げることも選択肢となります。完済すれば抵当権や差押えが消されるため、金銭面でのトラブルから一気に解放されるでしょう。もっとも、現実的に一括返済ができるほど資金に余裕があるケースは多くないため、状況に応じた対処が求められます。

2-2.プライバシーを守りやすい

競売にかけられると、物件情報が物件明細書やインターネット上で公開されるので、近隣住民や知人に知られてしまう可能性があります。競売形態で進むと、入札者が物件見学に来る際に自宅を見られたり、引っ越しまでの強制退去に関する不安など精神的なストレスが大きいのも現実です。

任意売却の場合は不動産会社を通じて通常の売買と同じような形で進められるため、周囲に競売だと知られにくくなります。結果として、近所からの目を気にしないで済みやすく、それまでの生活を続けながら売却活動を進められるメリットがあります。心理的な負担の大きさを考えると、早めに競売を取り下げる意味は十分あると言えます。

競売取下げの注意点をチェック

競売を取り下げるメリットがある一方で、実行にはさまざまなリスクや注意点も存在します。タイミングを逃すと、取り下げが間に合わないこともあるため、あらかじめ理解しておきましょう。

3-1.時間的猶予が限られる

競売開始決定通知を受け取ってから開札期日の前日までが取り下げのタイムリミットといわれることが多いです。ここを過ぎると事実上取り下げが認められなくなるため、迅速に対処する必要があります。任意売却を選ぶ場合は、物件の売却先を探したり、債権者との交渉をまとめたりと、思いのほか時間がかかる点が要注意です。

特に、買い手が見つかったとしてもローンを組めるかどうか審査に時間がかかるケースがあります。差押えや抵当権が複数あると金融機関が敬遠しがちなので、その整理をしつつスケジュールを逆算して動くことをおすすめします。

3-2.登記簿への差押え記載

競売開始決定がなされると、登記簿に差押えが記載されることがあります。登記簿の情報は誰でも閲覧できるため、物件を売り出したときに買主候補が詳細を確認すれば、競売のリスクに気づかれてしまいます。差押えを抹消するためには、根本の債務を支払うか、任意売却時の売却代金でカバーする必要があります。

買主が住宅ローンを組むときは、抵当権や差押えがついている物件に対する融資に対して慎重になる金融機関が多いです。結果として、買い手探しが思うように進まず、取り下げの期限を超えてしまうリスクも否めません。差押えの処理を早めに検討しておくことで、スムーズな売却につなげることが大切です。

3-3.税金滞納や抵当権の処理

税金を滞納している場合は地方公共団体から差押えが入っているケースが多く、そのままでは競売を含む債務問題が複雑化しがちです。税金の滞納分を納めると差押え登記を抹消でき、買い手が見つかりやすくなるメリットが生まれます。逆に、税金滞納を放置したままだと、任意売却を進めても競売取り下げがスムーズにいかない可能性があります。

さらに住宅ローンなどの抵当権が複数ある場合にも注意が必要です。任意売却では、すべての債権者から同意を取り付けなければならず、手続きに時間を要します。とりわけ税金関連は強い優先権があるため、残債より優先して差押えを執行する場合があり、スケジュール管理や交渉力が求められます。

競売を回避する方法

競売開始通知が届いたあと、取り下げる方法としては任意売却や一括返済が代表的です。選択肢は状況によって異なるため、自身の返済能力や家族構成、住み続けるかどうかなど総合的に判断しましょう。

4-1.任意売却を検討するとき

ローンを滞納しており、一括返済が困難な場合は任意売却が有力な選択肢です。任意売却の際にはすべての債権者の合意を得る必要があるため、調整にはある程度の時間と交渉力が必要になります。それでも競売より高い金額で売れる可能性があり、残った債務を圧縮できるなどの利点があります。

また、任意売却が成功すれば競売自体を取り下げやすくなるため、売却後に手元に多少なりとも資金を残せる場合があります。物件が見つかったとしても、スケジュール管理が間に合わなければ開札期日を迎えてしまうため、早期に専門家へ相談して任意売却をスムーズに進めることが大切です。

4-2.一括返済ができるケース

相続した不動産を守りたい方や、まとまった資金が用意できる見込みがある方は、一括返済による競売取り下げも検討できます。一括返済できれば、抵当権を完全に抹消できるため、今後のローン返済に悩む必要はなくなるでしょう。

ただし、実際に大きな金額を短期間で用意するのは容易ではありません。親族や知人と資金協力の相談をするケースも見られますが、人間関係への影響を考慮する必要があります。自分一人で抱え込むのではなく、弁護士やファイナンシャルプランナーといった専門家に相談したほうが安全です。

4-3.専門家に相談する重要性

競売取り下げの交渉では複数の債権者が登場することもあり、法律や不動産の実務に詳しくないと混乱しがちです。弁護士や不動産の専門家に早めに相談すると、必要書類の提出手続きや各債権者との交渉がスムーズになります。

特に競売開始決定後の任意売却は時間との戦いになることが多く、専門家のネットワークと実務スキルが重要です。競売取り下げのタイミング、差押え登記の抹消手続き、譲渡所得税などの税務面への対策など、幅広い視点からサポートを受けられます。

競売 取下げの流れと費用

実際に競売を取り下げる際には、裁判所へ提出する書類の準備や予納金の返還手続きなど、具体的な流れを把握しておく必要があります。手続きを誤ると、余分な費用がかかったり、タイミングを逃してしまうおそれもあります。

5-1.取り下げ手続きのステップ

債権者が意向を変える形で「競売申立一部取下書」を裁判所に提出するのが基本の流れです。大まかには以下の通りです。

  1. 債務者・債権者間で取り下げについて合意
  2. 債権者が裁判所へ取下書を提出
  3. 裁判所が競売取り下げを認める決定を下す

なお、取り下げを成立させるには、そこに至る背景として任意売却による売買代金の支払い・一括返済などのめどを付ける必要があります。債権者は単なる好意で競売をやめるわけではないため、取り下げるだけの根拠を明確に示すことが重要です。

5-2.費用の内訳と予納金の扱い

競売を取り下げる場合、債権者が予納金として納めたお金の一部は使われずに済むこともあります。取り下げが早ければ余剰部分が返還されるので、債権者の負担が軽減されるメリットが生まれます。差押え抹消のためには登録免許税が必要ですが、物件数によって金額が変わる点に注意が必要です。

一方、債務者の側にも任意売却に伴う不動産仲介手数料や、税金滞納分、抵当権抹消に必要な経費など、さまざまなコストがかかる可能性があります。ただし、それらの経費は売買代金から捻出できることもあり、最初から自分の懐から全額を用意しなければならないとは限りません。費用面の詳細は事前に専門家へ確認しながら進めるほうが安心です。

5-3.失敗を防ぐためのポイント

競売取り下げの失敗を防ぐには、まず開札期日を意識したスケジュール管理が欠かせません。任意売却を選ぶ場合は、買主との契約締結時期や金融機関の融資審査の期間を踏まえ、余裕をもって動く必要があります。

次に、税金や管理費、複数の抵当権といった債務の優先関係を整理しておくことが大切です。特に税金は公的機関が関わるため優先度が高く、放置していると任意売却が成立しにくくなります。困ったときは早い段階で弁護士や不動産の専門家を交え、柔軟な解決策を模索することがおすすめです。

まとめ

競売開始決定後でも、諦めずに適切な方法で動けば不動産を守る可能性があります。任意売却や一括返済といった選択肢を活用し、差押えや抵当権をきちんと処理していけば競売の取り下げを実現できる余地は十分にあるでしょう。特に差押えの抹消や債権者への交渉は時間との勝負になるので、早めの行動と専門家のサポートが重要です。状況に応じてどの方法がベストかを見極め、競売のリスクを最小限に抑える手立てを検討してみてください。