不動産を共有で相続したとき、相続税の負担を減らすには?大切なポイントを紹介

不動産を相続する際、共有名義になることは珍しくありません。親から子へ、あるいは兄弟姉妹間で不動産を分け合うケースでは、共有という形態が選ばれることが多いのです。しかし、共有で相続すると相続税の計算や申告が複雑になり、適切な対策を取らなければ必要以上の税負担を強いられることがあります。

この記事では、不動産を共有で相続した際の相続税負担を合法的に減らす方法について詳しく解説します。小規模宅地等の特例や各種控除の活用法、共有持分特有の評価減のテクニックなど、相続税を効果的に節税するための具体的な方法を紹介していきます。相続対策は早めに始めることで選択肢が広がります。不動産の共有相続を検討している方はぜひ参考にしてください。

この記事の作成者

康原 工偉智Koichi Yasuhara

共有持分支援協会の代表相談員
大阪府出身。プロ野球選手を夢見て、名門PL学園から亜細亜大学に進学。度重なるケガでプロの夢を諦めるも、大手不動産会社に就職。持ち前のバイタリティで営業成績もトップクラスを誇る。共有持分を買取る投資家、不動産業者とのパイプも太い。

不動産を共有で相続する場合の相続税の基本

不動産を共有で相続する場合、相続税の計算や申告には特有のルールがあります。まずは基本的な仕組みを理解しましょう。

共有相続された不動産の相続税評価の仕組み

不動産を共有で相続する場合、まず相続税評価額の算出方法を知っておく必要があります。相続税における不動産の評価は、一般的に「路線価方式」または「倍率方式」で行われます。

土地の評価については、市街地にある土地は路線価方式、それ以外の地域は倍率方式が適用されるのが一般的です。路線価方式では、国税庁が毎年発表する路線価に土地の面積を掛けて評価額を算出します。一方、建物の評価は固定資産税評価額をベースに計算されます。

共有相続の場合、不動産の評価額を算出した後、各相続人の持分割合に応じて分割します。例えば、評価額3,000万円の不動産を3人で均等に相続した場合、各人の相続財産は1,000万円ずつとなります。

共有持分については、単純に持分割合で按分するよりも評価額が低くなる可能性があります。これは「共有持分の評価減」と呼ばれる重要な節税ポイントです。

また、相続税の基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算されます。例えば、法定相続人が3人の場合、基礎控除は4,800万円(3,000万円 + 600万円 × 3人)となります。この基礎控除を超えた部分に対して相続税が課税されるため、共有相続で財産を分散させることで、基礎控除を有効活用できる可能性があります。

相続税申告における共有不動産の取り扱い

共有不動産の相続税申告には、いくつかの重要なポイントがあります。まず、相続税の申告期限は被相続人(亡くなった方)の死亡を知った日の翌日から10か月以内と定められています。この期限を過ぎると延滞税や加算税が課される可能性があるため注意が必要です。

共有不動産の相続税申告では、各相続人の持分割合を明確に示す必要があります。これには「遺産分割協議書」が重要な役割を果たします。遺産分割協議書には、誰がどの財産をどれだけ相続するかを具体的に記載し、全相続人の署名・捺印が必要です。

共有不動産の申告書作成では、財産の明細書に共有である旨と持分割合を明記します。例えば「〇〇不動産(共有、持分2分の1)」のように記載します。また、評価額も持分に応じた金額を記入するのが原則です。

共有不動産の相続税申告では、適用できる特例や控除を漏れなく検討することが重要です。適切な特例を活用することで、相続税額を大幅に軽減できる場合があります。

共有相続の場合、相続人それぞれが異なる税率区分に該当することがあります。相続税は累進課税方式を採用しているため、財産を共有で分散させることにより、全体の税負担を軽減できるケースがあります。これを「相続税の総額の分散効果」と呼びます。

なお、共有不動産の相続税申告は複雑になりがちなため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けることで、適切な申告と最大限の節税効果を得られる可能性が高まります。

不動産の共有相続で活用できる控除・特例

不動産の共有相続では、いくつかの控除や特例を活用することで相続税の負担を軽減できます。主要な控除・特例とその活用法を見ていきましょう。

小規模宅地等の特例による評価減の活用法

「小規模宅地等の特例」は、被相続人が住んでいた宅地や事業用の土地について、一定の条件を満たすと評価額を大幅に減額できる特例です。共有相続の場合でも適用可能であり、相続税対策として非常に効果的です。

この特例の減額率と上限面積は以下のように区分されています

区分減額率適用限度面積
特定居住用宅地等(被相続人の自宅の敷地)80%330㎡
特定事業用宅地等(被相続人の事業用地)80%400㎡
貸付事業用宅地等(アパート等の貸付用地)50%200㎡

例えば、評価額5,000万円の居住用宅地(300㎡)を相続した場合、小規模宅地等の特例を適用すると評価額は1,000万円(5,000万円 × (1 – 0.8))まで減額されます。これにより相続税の課税対象額が大幅に減少します。

共有相続の場合でも、各相続人が特例の適用条件を満たせば、それぞれの持分に対して小規模宅地等の特例を適用できます。ただし、適用限度面積は相続人全体で共有することになります。

特例適用の主な条件は以下の通りです

  • 居住用宅地の場合:相続人が被相続人の配偶者であるか、または相続開始時に被相続人と同居していた親族であること
  • 事業用宅地の場合:相続人が被相続人の事業を引き継ぐこと
  • 貸付事業用宅地の場合:相続人が被相続人の貸付事業を引き継ぐこと

この特例は適用条件が複雑なため、自分のケースに当てはまるか専門家に確認することをおすすめします。特に共有相続の場合は、誰がどの持分に対して特例を適用するかを検討する必要があります。

各種税額控除を利用した相続税軽減策

相続税には様々な税額控除があり、これらを適切に利用することで納税額を軽減できます。共有不動産の相続でも活用できる主な控除は以下の通りです。

配偶者の税額軽減は最も大きな控除の一つです。被相続人の配偶者は、法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい金額まで相続税がかかりません。例えば、相続財産総額が3億円で法定相続分が2分の1の場合、配偶者は1億5,000万円まで非課税となります。

その他にも以下のような控除があります

  • 未成年者控除:20歳までの年数×10万円
  • 障害者控除:85歳までの年数×10万円(特別障害者の場合は20万円)
  • 相次相続控除:10年以内に前の相続で支払った相続税の一部を控除
  • 外国税額控除:外国でも課税された場合に二重課税を調整

共有不動産の相続では、これらの控除を相続人ごとに検討することが重要です。各相続人の状況に応じて適用できる控除を最大限活用することで、総合的な税負担を軽減できます。

例えば、共有相続において障害者がいる場合、その相続人の取得分を多くすることで障害者控除を最大限に活用することができます。また、配偶者がいる場合は、配偶者の税額軽減を活用するために、配偶者の取得分を調整することも検討すべきです。

これらの控除は自動的に適用されるわけではなく、相続税の申告時に適用を受けるための手続きが必要です。控除を漏れなく適用するためにも、専門家のサポートを受けることをおすすめします。

共有相続不動産の相続税負担を減らす具体的な方法

不動産の共有相続における相続税負担を減らすには、評価方法の工夫や遺産分割の戦略的な検討が重要です。具体的な節税方法を見ていきましょう。

共有持分の評価減を適用するテクニック

不動産を共有で相続する場合、単純な持分割合以上に相続税評価額を下げられる可能性があります。これを「共有持分の評価減」と呼び、効果的な節税手段となります。

不動産の共有持分は、単独所有の場合と比べて市場価値が下がると考えられています。これは共有者の合意がなければ不動産の売却や改修が難しく、流動性や活用の自由度が低下するためです。この価値の低下を税務上も認めるケースがあります。

共有持分の評価減を適用するには、不動産鑑定士による鑑定評価を取得するのが一般的です。鑑定評価では、共有持分の市場性の低さを反映して、単独所有の場合と比べて10%~30%程度の評価減が認められるケースがあります。

例えば、評価額1億円の不動産を2人で均等に共有する場合、単純計算では各人5,000万円ずつの評価となります。しかし、共有持分の評価減が20%認められると、各人の評価額は4,000万円(5,000万円 × 0.8)に減額されます。

共有持分の評価減を適用するためのポイントは以下の通りです

  • 信頼できる不動産鑑定士に依頼し、共有持分の市場性の低さを客観的に評価してもらう
  • 共有者間の関係性(親族か第三者か)や共有割合を考慮する
  • 不動産の種類(居住用・事業用・投資用)や立地条件も評価減の幅に影響する
  • 評価減の根拠を明確にした鑑定書を取得し、税務署への説明資料として準備する

なお、共有持分の評価減は税務署の判断によるところが大きいため、事前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。適切な評価減が認められれば、相続税負担を合法的に軽減できることが期待できます。

不動産の共有相続における遺産分割のポイント

相続税負担を減らすには、遺産分割の方法も重要な要素です。戦略的な遺産分割により、相続税の総額を抑えられる可能性があります。

相続税は累進課税方式を採用しているため、相続財産が多いほど税率が高くなります。そのため、相続人間で財産を偏りなく分配することで、総合的な相続税額を抑えられるケースがあります。

例えば、3億円の遺産を1人で相続すると税率は高くなりますが、3人で1億円ずつ相続すれば各人の税率は低くなり、合計の税額も少なくなる可能性があります。

共有不動産の遺産分割で考慮すべきポイントは以下の通りです:

  • 各相続人の税率区分を考慮した分割比率の検討
  • 小規模宅地等の特例など各種特例・控除を最大限活用できる分割方法
  • 配偶者の税額軽減(法定相続分または1億6,000万円までの非課税)の活用
  • 相続人の年齢や障害の有無など個別事情を考慮した分配
  • 将来の二次相続も見据えた長期的視点での分割

特に、小規模宅地等の特例を活用するためには、居住要件や事業継続要件など特定の条件を満たす相続人に不動産を相続させることが効果的です。例えば、被相続人と同居していた相続人に居住用不動産を相続させることで、80%の評価減を適用できる可能性があります。

遺産分割は一度行うと変更が難しいため、税理士や弁護士など専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることをおすすめします。相続税だけでなく、将来の管理や売却なども見据えた総合的な判断が重要です。

不動産の共有相続における注意点と対策

不動産の共有相続では税負担の軽減だけでなく、将来のトラブル防止や円滑な管理のために注意すべきポイントがあります。主な注意点と対策を見ていきましょう。

共有持分の遺産分割協議書作成のポイント

共有不動産の相続では、明確な遺産分割協議書の作成が非常に重要です。将来のトラブルを防ぎ、相続税申告の根拠となる正確な協議書を作成するポイントを解説します。

遺産分割協議書には、不動産の詳細情報(所在地、地番、面積など)と各相続人の取得する持分割合を明確に記載する必要があります。例えば「東京都〇〇区〇〇町1-2-3所在の土地(登記簿面積200㎡)について、Aは2分の1、Bは4分の1、Cは4分の1の持分を取得する」といった具体的な記載が必要です。

共有不動産の遺産分割協議書では、将来の管理方法や費用負担、売却時の取り決めなども盛り込んでおくことが望ましいです。これにより、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。

遺産分割協議書作成時の主なチェックポイントは以下の通りです:

  • 全ての相続人の署名・実印の押印と印鑑証明書の添付
  • 不動産の正確な表示(登記簿通りの記載が必要)
  • 各相続人の取得する持分割合の明記
  • 相続税の申告・納付に関する取り決め
  • 不動産の維持管理費用の分担方法
  • 将来の売却・分割に関する合意事項
  • 共有者の死亡時の持分の取扱い

遺産分割協議書は相続税申告の添付書類となるほか、不動産の共有持分を登記する際の根拠資料にもなります。相続登記は法律で義務化されているため、遺産分割協議成立後は速やかに登記手続きを行いましょう。

なお、共有持分の合意形成が難しい場合は、「遺産分割調停」という裁判所の手続きを利用することも検討できます。専門家の支援を受けながら、相続人全員が納得できる合意形成を目指しましょう。

共有不動産の相続税申告における専門家の活用

共有不動産の相続税申告は複雑なため、専門家の力を借りることで適切な申告と最大限の節税効果を得られる可能性が高まります。どのような専門家にどのように相談すべきかを解説します。

相続税申告で活用すべき主な専門家は以下の通りです

専門家主な役割
税理士相続税申告書の作成、節税対策の提案、税務署との交渉
弁護士遺産分割協議のサポート、相続トラブルの解決
不動産鑑定士不動産の適正評価、共有持分の評価減の根拠資料作成
司法書士不動産の相続登記手続き

相続税の専門家に早めに相談することで、相続開始前からの対策も含めた総合的なアドバイスを受けられます。特に共有不動産の場合は評価方法や特例適用に専門的判断が必要となるため、専門家の活用が効果的です。

専門家に相談する際のポイントは以下の通りです

  • 相続税や不動産共有の実績が豊富な専門家を選ぶ
  • 複数の専門家に相談し、セカンドオピニオンを得る
  • 相談料や着手金、報酬体系を事前に確認する
  • 相続関連の書類や不動産情報を整理して相談に臨む
  • 税務調査への対応も含めたサポート体制を確認する

専門家への相談費用は、相続税申告の複雑さや相続財産の規模によって異なりますが、一般的に数十万円から数百万円程度かかります。ただし、適切な節税対策により何百万円、場合によっては何千万円もの節税効果が得られる可能性があるため、必要な投資と考えるべきでしょう。

特に共有不動産の相続では、小規模宅地等の特例の適用判断や共有持分の評価減など、専門的な知識が必要となる場面が多くあります。確実に節税効果を得るためにも、専門家のサポートを検討してください。

まとめ

不動産を共有で相続する場合、相続税負担を減らすための様々な方法があることを解説してきました。相続税評価の基本的な仕組みを理解し、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの控除・特例を活用することが重要です。また、共有持分の評価減を適用するテクニックや戦略的な遺産分割の検討も効果的な節税方法となります。

共有不動産の相続では、明確な遺産分割協議書の作成が将来のトラブル防止のために不可欠です。また、相続税申告の複雑さを考えると、税理士や不動産鑑定士などの専門家のサポートを受けることで、確実に節税効果を得られる可能性が高まります。早めに専門家に相談し、あなたの状況に合った最適な相続対策を検討することをおすすめします。