相続した家の共有名義を一人にまとめるには?変更時に知っておきたい費用と進め方

相続した家が共有名義のままだと、自由に活用できず、将来的にトラブルへ発展するリスクが高まります。共有名義を一人にまとめることで誰が所有者かを明確にし、賃貸や売却の際にスムーズな手続きが可能になります。

本記事では、相続人の確定から名義変更にかかる費用・税金の目安まで、具体的な進め方を分かりやすく解説します。家族間での協議が難航している方や、手続きの流れを詳しく知りたい方に役立つ情報をご紹介します。

この記事の作成者

康原 工偉智Koichi Yasuhara

共有持分支援協会の代表相談員
大阪府出身。プロ野球選手を夢見て、名門PL学園から亜細亜大学に進学。度重なるケガでプロの夢を諦めるも、大手不動産会社に就職。持ち前のバイタリティで営業成績もトップクラスを誇る。共有持分を買取る投資家、不動産業者とのパイプも太い。

共有名義を一人にまとめるメリット

ここでは、共有名義の家を単独名義にすることで得られる利点について解説します。相続財産を活用しやすくなるだけでなく、後々のトラブル防止にも効果的です。

不動産活用の自由度が高まる

共有名義のままだと、家を賃貸に出したり売却したりするときに共有者全員の合意が必要となります。共有者が遠方に住んでいる場合や、多忙で連絡が取りにくい状況では合意形成が難しい可能性があります。

単独名義であれば所有者の判断のみで不動産を処分できるので、経済的な損失を回避しやすくなります。特に不動産投資の観点からは、スピーディーな意思決定が重要となるため、このメリットは大きいでしょう。

共有者間のトラブル防止

家の管理方法やリフォームの実施タイミングなど、共有名義には共有者同士で意見が対立しやすいポイントが数多くあります。もし意見が一致しない場合、話し合いが長期化してしまい円満な解決が難しくなることも珍しくありません。

共有名義を解消しておけば、意見の衝突を未然に防ぎながら、家族や親族との良好な関係を維持できる可能性が高まります。手続きは複雑に思えますが、後々のトラブルを防ぐためにも前向きに考えてみるとよいでしょう。

相続における事前確認

ここでは、相続した家の名義を変更する際にまず押さえておきたい前提知識をまとめます。相続人を確定させることや、遺言書の存在確認は最初の重要なステップです。

相続人の確定

家を相続した時点では「法定相続人」が誰になるのかを正確に把握する必要があります。戸籍謄本や改製原戸籍などを取得し、被相続人との血縁関係を確認することで法定相続人を正式に確定させます。相続手続きはこのステップがないと先に進めません。

相続人が確定したら、人数や関係性に応じて話し合いの手続きも変わってきます。相続人が多ければ協議する項目が増え、スケジュール調整もしづらくなるでしょう。早めの段階で徹底した身分確認を行い、相続手続きの混乱を避けたいところです。

遺言書の有無を調査

公正証書遺言や自筆証書遺言など、被相続人が生前に遺言書を作成していることがあります。遺言書はその内容が法定相続より優先されるため、相続手続きの根幹を左右する重要な書類です。自宅や銀行の貸金庫などを探すだけでなく、公証役場や法務局で遺言書の情報を確認するケースもあります。

遺言書が見つかった場合でも、中には有効性の判断が必要なケースもあります。開封前に家庭裁判所で検認が必要となることが多いため、手続きをしっかりと踏みましょう。遺言書が正しく存在するかどうかで名義変更のアプローチも変わるので、丁寧に調べることが大切です。

全相続人による遺産分割協議

複数の相続人がいる場合は、それぞれの相続分をどのように分けるか合意を得る必要があります。これを遺産分割協議と呼び、ここで相続した家を特定の人が取得することを決めるなら、協議書にその旨を明記しましょう。相続人全員の印鑑登録証明書が必要になるため、早めに準備を始めるのがおすすめです。

遺産分割協議書は、法務局で行う登記手続きの際に提出を求められることもある重要書類です。仲介役となる専門家の助言を受けながら作成すると、協議の不備や記載漏れを防ぐことができ、安心です

共有名義から単独名義に変更する方法

相続で得た家が既に複数名義になっている場合や、その後に共有者が増えた場合など、さまざまな状況が考えられます。ここでは代表的な方法と注意点を整理します。

他の共有者の持分を売買で取得

もっとも一般的なのが、他の共有者が保有する持分を買い取る方法です。売買契約書を取り交わし、その契約内容に基づいて法務局で登記手続きを行えば単独名義が実現します。買い取るための資金が必要になる点がデメリットですが、買収価格への合意が得られ、住居用に活用できる資金があるなら効率的な方法といえるでしょう。

ただし、共有者が多数いるケースでは各人との交渉が複雑化する恐れがあります。売買金額の査定や契約書の作成には専門的な知識が必要となる場合も多いので、不動産会社や司法書士に相談するとスムーズに進めることができるでしょう。

共有物分割請求の訴訟

他の共有者からの同意が得られず話し合いが行き詰まった場合、裁判所に「共有物分割請求」を行う方法があります。裁判の結果によっては自分の希望する形では分割されない可能性もあり、時間と費用がかかる点は大きなリスクです。

この訴訟では、土地や建物を現物分割する方法や競売による分割など、裁判所が最終判断を下します。最終的な結果を第三者の判断にゆだねるため、可能であれば話し合いによる解決を目指すほうが良いでしょう。

共有持分の贈与・放棄

家族間での名義変更では、贈与や放棄によって単独名義を実現することも可能です。贈与の場合は贈与税が発生する場合があり、放棄の場合には「みなし贈与」と見なされることもあるので税務面での留意が必要です。

贈与契約書や持分放棄の意思を示す書類など、必要な書類をきちんと整えたうえで法務局へ出向きます。税金面で思わぬ負担がかからないよう、事前に税理士や司法書士などと相談するのが安心といえるでしょう。

共有名義の土地を分筆する

家ではなく土地のみが共有状態になっている場合、分筆によって単独名義を成立させる方法があります。ただし、土地を物理的に分割すると面積が減少し、資産価値が下がる可能性がある点には注意が必要です。

分筆によって共有者それぞれが単独所有の土地を取得できるメリットは大きい一方、区画割りの測量や登記手続き、さらには境界確認などで費用や時間がかかるというデメリットもあります。将来的な不動産売却も見据えたうえで、専門家のアドバイスを受けながら最適な判断を行うとよいでしょう。

名義変更に必要な書類

手続きを進めるうえでは、売買や相続、贈与などの形態によって必要書類が変わります。どの書類が求められるかを知っておけば、手続きがスムーズに進みます。

基本的な書類

  • 登記申請書
  • 登記事項証明書(登記簿謄本)
  • 身分証明書(運転免許証など)
  • 印鑑証明書(所有者や譲受人の分)

これらは状況を問わず必要になることが多い基本的な書類です。特に印鑑証明書は発行後3か月以内という期限が設定される場合もあるため、申請前に取得しておくと安心です。

相続や贈与の場合の追加書類

  • (相続)被相続人の戸籍謄本・相続人全員の戸籍謄本
  • (相続)遺産分割協議書
  • (贈与)贈与契約書

相続で単独名義になる場合は、被相続人の直系の書類をすべてそろえる必要があります。戸籍の収集を後回しにすると大幅にタイムロスが生じる場合があるため、早めの準備が肝心です。贈与の場合は専門家と相談しながら契約書の内容を十分に検討しておくと、後々のトラブルを回避できます。

費用と税金の目安

続いて、実際に名義変更を行う際にかかる費用について見ていきましょう。主な要素としては登録免許税や不動産取得税、贈与税などが挙げられます。

主な税金の計算方法

ここでは代表的な税金や料金の目安を紹介します。ただし、固定資産税評価額に応じて変動するものが多い点に注意し、実際に正確な金額を算出したい時は専門家に相談しましょう。

税金・費用の種類 税率・詳細
登録免許税 売買・贈与の場合: 評価額 × 2% / 相続の場合: 評価額 × 0.4%
不動産取得税 土地と家屋は固定資産税評価額の3%、非住宅用などは4%
贈与税 贈与財産に応じて10%~55%
印紙代 契約金額により200円~20万円
司法書士への報酬 手続き内容によるが、5万円~10万円が目安

税金の負担は大きな懸念点ですが、該当しない特例や免税措置が用意されている場合もあります。そのため、実際に支払う税額を正確に把握するには、固定資産税評価額や契約内容を基に細かく試算することが必要です。

その他の費用

名義変更には戸籍謄本や住民票などの発行手数料や、不動産売買契約締結時の仲介手数料など、付随的な費用も発生します。また、資料を取り寄せたり法務局での相談に時間がかかる場合があるため、スケジュール面も含めて余裕を持って取り組むことが重要です。

想定外の支出や時間的コストを軽減するためにも、あらかじめ必要な手順や書類のリストを作成して準備を進めることが大切です。書類の取得費用は自治体によって多少異なるため、最新の手数料を確認したうえで計画的に動きましょう。

共有名義を解消しないリスク

相続後も長期間にわたって共有名義の状態が続くと、さまざまなデメリットによって不動産の価値や利用機会を損なう恐れがあります。ここでは、代表的なリスクをまとめてみます。

活用制限と処分の難しさ

共有名義の不動産は売却や賃貸など、多面的な不動産活用をする際に合意形成が必須です。一人だけが賃貸契約を結びたいと思っても、他の共有者が反対すれば実行に移せません。売り時を逃すことにもつながり、結果として収益機会を損失することがあります。

また、不動産を担保に借り入れを行いたい場合でも、単独名義でないと銀行との交渉が複雑化し、ローンが下りないケースもあります。資産を有効に活用できず、機会の損失が大きくなる点は大きなデメリットといえるでしょう。

共有者間での意見対立の深刻化

相続人が増えると意見対立が起こりやすくなります。些細なリフォームのタイミングや費用の分担、固定資産税の支払い負担など、一度いさかいが起こると関係修復が難しくなることもあります。

特に、家族間のコミュニケーションが途絶している場合は議論自体が成立しにくく、手続きが停滞してしまいます。早めに共有名義を解消しておけば、そうしたトラブルを未然に防止できる可能性が高まります。

名義変更手続きの流れ

ここでは、相続した家を単独名義にするためのおおまかな手順を整理します。相続や贈与など、状況によって手続きの順番は変わることがありますが、一般的には以下のステップとなります。

相続の確認・遺言書の確認

まずは法定相続人を確定し、遺言書の有無を調べます。自宅や法務局などで遺言書が保管されていないかを確認し、それに基づいて相続手続きを進めるかどうかを判断します。遺言書の内容が最優先される場合もあることに注意が必要です。

相続人が確定したら、遺産分割協議書を作成して誰がどの不動産を取得するかを定めます。印鑑証明書や戸籍謄本などの必要書類をまとめておくことで、後の登記手続きをスムーズに進められます。

登記申請書の作成・提出

名義変更に必要な登記申請書を作成します。共有持分の取得者と放棄者(または売却主)を明確にし、必要書類を添付して法務局に提出します。申請書には物件の詳細(地番や家屋番号など)や持分割合が正しく記載されているかを入念にチェックしましょう。

書類に不備がないかを事前に確認し、登記にかかる登録免許税の支払いを済ませれば、名義変更完了です。申請書の書き方は法務局の窓口や公式サイトでも確認できますが、不慣れな場合は司法書士に依頼するのも一つの方法です。

まとめ

相続した家を単独名義にするには、相続人の確定や遺産分割協議などの準備から始まり、売買・贈与・放棄などの方法で共有持分を集約する流れになります。名義変更には登録免許税や不動産取得税などの費用がかかるため、入念な計画が大切です。

早期に専門家へ相談し、必要書類や費用面を明確にしておけば、共有者同士のトラブルを未然に防ぎながら円滑に手続きを進められます。行動に移して、安心して家を活用できる状況を整えましょう。