共有持分の買取請求とは?交渉と法的対処で解決する方法を徹底解説

「共有持分の買取請求をしたいので、方法を知りたい」
「共有持分の買取請求をされたけど、応じなきゃいけないの」

と悩んでいませんか?

この記事では、共有持分の買取請求について、プロが詳しくご案内します。

>>共有持分の買取請求されて困っている人はこちら

この記事の作成者

戸田 良行Yoshiyuki Toda

【資格】宅地建物取引士
神奈川県出身。高校サッカーで全国大会進出を果たし、指導者の道に進む。その後、大手不動産会社で不動産のノウハウを蓄積する。諦めないことを信条に、お客様の希望を叶えるため日々奮闘中。

共有持分の買取請求とは?

共有持分の買取請求とは、共有不動産を所有している人が、他の共有者に対して「あなたの持分を買い取りたい」と申し出ることです。

買取請求には、大きく分けて次の2つの方法があります。

  • 当事者間の交渉による買取請求
  • 買取請求権による買取請求

当事者間の交渉による買取請求

当事者間の交渉による買取請求とは、他の共有者に「持分を買い取りたい」と申し出て、合意のもとで売買を行うことです。

相手に伝える内容は次の通りです。

  • 希望する金額や条件
  • 取引後の不動産の活用方法(売却・住む予定など)

具体的な手順はこちらの『共有持分の買取請求「6つの手順」』でご案内しています。

この時、相手から相場を無視した法外な価格を提示されることがあります。

このような場合は、「共有物分割請求訴訟」をご検討ください。

【解説】共有物分割請求訴訟とは
    民法256条より、協議での解決が困難なときに、裁判所に不動産の現物分割・換価分割・代償分割を求める制度のことです。

詳しくはこちらの「共有物分割請求訴訟とは?」でご案内していますので、ご一読ください。

共有持分の買取請求権「7つの手順」

共有持分の買取請求権とは、「共有者の1人が1年以上、管理費や固定資産税を正当な理由なく支払っていない場合」に、他の共有者がその持分を法的に取得できる制度のことです。

これは、民法第253条第2項で定められた、長年費用を負担している共有者が損をしないための制度です。

具体的には、次のような状況で行使できます。

  • 共有者の1人だけが税金・修繕費などを全額負担している
  • 他の共有者に催促しても1年以上支払いがない
  • 相手に連絡がつかず、協議できない状態が続いている

具体的な手順については、こちらの『共有持分の買取請求権「7つの手順」』をご覧ください。

共有持分の買取請求で解決したケース

ケースを2つご案内します。

【ケース①】兄弟間で交渉した
    兄と弟で実家(空き家)を共有していましたが、兄は遠方に住んでおり、管理や税金の負担に悩んでいました。

    地元に住む弟が「土地を活用したい」と希望し、兄の持分を買い取りたいと交渉を開始。

    複数回の話し合いを経て、相場に近い価格で売買契約を締結し、弟の単独名義になりました。

    弟は実家をリフォームして売却しました。

交渉で買取たい方はこちらの『共有持分の買取請求「6つの手順」』をご覧ください。

【ケース②】買取請求権を行使した
    兄弟で共有する空き家の固定資産税と管理費を、弟が1年以上、支払わない状態が続いていました。

    兄は、共有持分に強い弁護士に相談し、民法第253条2項にもとづいて、買取請求権を行使することを決意。

    まずは内容証明郵便で正式に通知し、その後で弟と交渉を行いました。

    弟は支払いたくないし、裁判もしたくないので、相場の価格で兄に売却しました。

    兄は賃貸収入を得るため、買取った戸建を少しリフォームして、貸し出しました。

買取請求権を行使したい方は、こちらの『共有持分の買取請求権「7つの手順」』をご覧ください。

共有持分の買取請求「6つの手順」

6つの手順
  1. 持分買取を申し出る
  2. 価格と条件を話し合う
  3. 売買契約書を作成する
  4. 代金を決済する
  5. 登記手続きを行う
  6. 確定申告をする

順を追ってご案内します。

【手順①】持分買取を申し出る

最初に、他の共有者に「持分を買い取りたい」と伝えてください。

書面やメールを証拠として残しておくと、後のやり取りを有利に進められます。

話し合いがうまく進まない場合は、先ほどご案内した「共有物分割請求訴訟」での解決をご検討ください。

【手順②】価格と条件を話し合う

次に、買い取り価格やその他の条件について話し合います。

持分の買取価格は、次の計算式で算出できます。

  • 共有持分の買取価格=不動産全体の実勢価格(じっせいかかく)x 持分割合 x 評価割合(30%~50%)

より詳しくはこちらの「共有持分の買取相場は一般の不動産価格の30~50%!」でご案内していますので、ご一読ください。

交渉時に伝えるべき内容は次の4つです。

  • 持分の売却理由、物件の利用予定
  • 希望する売却価格
  • 代金の支払方法(分割・一括など)

交渉がまとまらないときは、「共有物分割請求訴訟」をご検討ください。

【手順③】売買契約書の作成

契約書を作成する理由は、後々のトラブルを防ぐためです。

例えば、「引き渡し時期が違う」「固定資産税の精算がされていない」といった揉め事を避けられます。

契約書の作成は、司法書士や不動産に詳しい弁護士に依頼してください。

専門家を介すことで、契約内容の不備や漏れを防ぐことができます。

売買契約書の作成にかかる費用の相場は次の通りです。

  • 司法書士の場合…5万円〜7万円
  • 弁護士の場合…7万円〜10万円
  • 公正証書にする場合…印紙代(※売買代金で異なる)+手数料(1万円前後)

公正証書とは、公証人(法律の専門職)が、当事者の依頼に沿って作成する法的に証明する力の強い公文書のことで、公証役場で作成できます。

契約内容が複雑な場合や、相手との関係が悪い場合は、弁護士にご依頼ください。

【手順④】決済する

決済では、売買代金の支払いと同時に登記関連書類をやり取りします。

登記原因証明情報や委任状など、事前に必要書類を司法書士と確認してください。

安全性を確保するため、原則として司法書士に立ち会いを依頼してください。

【手順⑤】登記手続きを行う

登記とは、不動産の権利関係を公的に証明するための制度のことです。

民法177条より、共有持分の売買では、所有権移転登記による名義変更が必要です。

手続きは司法書士にご依頼ください。

その費用の目安は次の通りです。

  • 登録免許税(売買):不動産の固定資産評価額 × 2.0%
  • 司法書士報酬:3万円~6万円

参考:国税庁「登録免許税の税額表

司法書士は、登記申請書の作成から法務局への提出まで代行してくれます。

【手順⑥】確定申告をする

売主側は、共有持分の売却によって譲渡益が出た場合、譲渡所得として確定申告が必要です。

申告期限は翌年の2月16日〜3月15日までです。

譲渡所得税について、より詳しくはこちらの「共有持分の買取で売主側に発生する費用を解説」でご案内していますので、ご一読ください。

共有持分の買取請求権「7つの手順」

  1. 共有物に関する負担の明確化
  2. 未払い管理費の催告
  3. 1年間の不履行期間の経過
  4. 共有持分買取請求権の行使通知
  5. 協議・民事調停・訴訟
  6. 対価を支払う
  7. 持分移転登記

順を追ってご案内します。

【手順①】共有物に関する負担の明確化

共有持分の買取請求権を行使するには、対象となる「管理費」等の性質と、実際の負担状況を明確に把握する必要があります。

対象となる費用例は次の通りです。

  • 固定資産税・都市計画税
  • 建物の修繕費用
  • 共用部の維持・管理費
  • 火災保険料などの付随経費

先ほどもご案内した通り、各共有者には、これらの費用を持分に応じて公平に負担する義務があります。

特定の共有者がこれらを長期間一方的に負担している証拠(納税証明書・振込明細など)は、この後の手続きで必要です。

書類を探して、保管しておいてください。

【手順②】未払い管理費の催告

催告とは、相手に対して正式に義務の履行を促す行為のことです。

内容証明郵便を使って、未払いの共有者に請求書を送付します。

内容証明郵便とは、いつ・誰が・どのような内容の文書を送ったのかを郵便局が証明してくれる制度のことで、法的トラブルの証拠として使えます。

価格は1,070円~です。

【手順③】1年間の不履行期間の経過

催告をしても、相手が正当な理由なく1年以上、支払いを行わない場合は、「買取請求権」を行使できるようになります。

例えば、2025年10月1日に催告したら、2026年10月1日に、行使できます。

民法第253条2項により定められています。

【手順④】共有持分買取請求権の行使通知

この通知は、一般的に内容証明郵便で送付します。

通知書作成費用の目安は次の通りです。

  • 弁護士の場合…1万5,000円〜3万円前後
  • 行政書士の場合…8,000円〜2万円前後
  • 自作の場合…1,000円前後(郵便料金+証明手数料)

【手順⑤】協議・民事調停・訴訟

内容証明郵便で通知した後は、相手との協議をします。

主に次のような項目について協議をし、合意を目指します。

  • 請求の対象となる共有持分の範囲
  • 支払い方法(一括・分割など)
  • 支払い期限と遅延時の対応
  • 登記手続きの時期と費用負担
  • 固定資産税などの未払い分の清算方法

当事者が協議で折り合いをつけられない場合は、民事調停や訴訟をご検討ください。

民事調停とは、裁判所が間に入り、当事者同士の合意を目指す話し合いの手続きのことです。

訴訟とは、裁判所に判断を委ねる手続きのことで、判決には法的拘束力があります。

【手順⑥】対価を支払う

協議や裁判の結果に従って、共有持分の対価を支払います。

裁判所の判決例は次の通りです。

  • 時価に基づく持分評価額の全額を支払うよう命じる
  • 過去の未払い費用を差し引いた金額を支払うよう命じる

例えば、共有物の持分評価額が1,000万円で、売主の未払い費用が50万円の場合、買主は950万円を支払えば、買取できます。

金額の支払い方法は、原則として一括払いです。

ただ、買主側の資力や事情を考慮して、担保を提供するなどの一定の条件を満たす場合は、分割払いになることがあります。

【手順⑦】持分移転登記

対価の支払いが完了したら、法務局で所有権移転登記を行います。

登記手続きが完了すると、不動産の権利関係の変更が正式に完了します。

登記手続きは司法書士にご依頼ください。

登録免許税と司法書士報酬(10万円~)が必要です。

共有持分の買取請求ができない場合の3つの代替策

3つの代替策
  1. 持分を第三者に売却する
  2. 共有物分割請求を行う
  3. 共有持分を放棄する

詳しくご案内します。

【代替策①】持分を第三者に売却する

共有者は、自分の持分だけを第三者に売却できます。

他の共有者の同意は必要ありません。

法的根拠は民法206条です。

【代替策②】共有物分割請求訴訟を行う

共有物分割請求とは、各共有者の合意が得られない場合に、裁判所に対して不動産の分割や売却などを求める制度のことです。

法的根拠は民法第256条です。

詳しくは「共有物分割請求訴訟とは?でご案内しています。

【代替策③】共有持分を放棄する

共有持分の放棄とは、自身の共有持分を無償で手放すことです。

放棄自体は、自分の意思で自由にできますが、その後の所有権移転登記の手続きには、全員の同意が必要です。

放棄しても、過去の固定資産税や管理費については、負担義務があります。

より詳しくはこちらの「共有持分の放棄とは?」でご確認いただけます。

共有持分の買取請求をされたときの3つの対応策と注意点

3つの対応策
  1. 提示条件が妥当なら買取に応じる
  2. 持分を第三者に売却する
  3. 相手の持分を逆に買い取る

それぞれ順に解説します。

【対応策①】提示条件が妥当なら買取に応じる

相手から提示された金額や条件が妥当で、書面に問題が無く、売却してもかまわないなら、応じてください。

買取金額の算出方法はこちらの「買取価格を算出する手順とシミュレーション」にありますので、ご覧になってみてください。

応じる際の注意点は次の通りです。

  • 売買契約書を作成し、弁護士や司法書士に確認してもらう
  • 譲渡所得が発生する場合は、税理士に相談する
  • 固定資産税や管理費などの精算内容を契約書に明記する

【対応策②】持分を第三者に売却する

自分が所有する持分は、自由に売却できます。

相手の買取請求に応じたくない場合、不動産会社に売却してください。

第三者に売却する際の注意点は3つあります。

  • 売却価格は一般的な不動産の30%~50%になる
  • 不動産会社によっては取り扱いを断られる

【対応策③】相手の持分を買い取る

相手の買取請求に応じず、自分が相手の持分を買い取って単独名義にする方法です。

単独名義にして高額売却して、利益を出すというイメージが湧く方は、トライしてみてください。

ただし、この場合は、相手が相場以上の金額を要求してくる場合があります。

対策は、近隣の取引事例などを提示し、妥当な価格であることを示すことです。

共有持分の買取請求についてのまとめ

買取請求には2種類あります。

まずは交渉を試みて、ダメな場合は共有物分割請求をします。

相手に落ち度がある場合は、買取請求権を行使します。

買取請求をされたら、相手か不動産会社に売却する、相手の持分を買取る、といった対策をしてください。