「離婚したけど共有名義のままでいいの?」
「名義変更していないと、何が問題なの?」
このように考えていませんか?
このページでは、離婚後も共有名義のまま名義変更をしないデメリットについて、プロが分かりやすくご案内しています。
「離婚後も名義変更せず、共有名義のまま」の7つのデメリット
- 連絡を取り合う機会がある
- 税金や維持費の負担で揉める
- 住宅ローンの返済で揉める
- 家が競売になる
- 売却するのに揉める
- 相続が発生して揉める
- 裁判で決着をつけることになる
共有名義のままだと、デメリットは多いです。
それぞれご案内していきます。
【デメリット①】連絡を取り合う機会がある
離婚した相手と、不動産に絡んだ内容で連絡をしなければいけない機会があるということです。
- 住宅ローンの残債などの確認をする
- 管理費や修繕費の分担などの確認をする
- 売却やリフォームの際に同意を得る
修繕やリフォーム、売却をするには共有者の同意が必要ということが、民法251条で規定されています。
-
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
この他にも同意が必要な行為があります。
- 同意が必要な行為について
| 行為 | 必要な同意 |
|---|---|
| 売却、大規模な修繕 | 共有者全員の同意 |
| リフォームなどの大きい規模の修繕、賃貸化など | 持分の過半数の同意 |
| 緊急の補修、簡単な掃除 | 単独でできる |
例えば、こちらが3分の1で、相手が3分の2だと、こちらの判断だけではリフォームすることができないということです。
相手と連絡すること自体にストレスを感じる人が多いです。
元配偶者が非協力的だったり、元配偶者の再婚相手が不動産に口を出してきたりすると、強いストレスがかかります。
【デメリット②】税金や維持費の負担で揉める
共有名義の場合、固定資産税や管理費、修繕費などは、持分に応じた割合を支払うということが民法253条で規定されています。
-
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
固定資産税は「連帯納税義務」ですので、自治体はどちらか一方に全額請求をします。
ただ、本来は分担して支払います。
離婚協議で負担割合を決めていたとしても、住んでいないのに支払い続けるようなケースは不満が貯まりやすく、揉めやすいです。
【デメリット③】住宅ローンの返済で揉める
共有名義の場合の住宅ローンは3種類ありますが、いずれの場合も一方が滞納すると、もう一方が全額を支払うことになります
- 住宅ローンの種類と滞納のリスク
| 種類 | 概要 | 滞納時 |
|---|---|---|
| ①ペアローン | 夫婦それぞれが別々にローン契約を結ぶ(2つのローン) | 一方が滞納すると、もう一方が支払う |
| ②連帯債務型 | 主債務者と連帯債務者で契約(1つのローン) | 一方が滞納すると、もう一方に全額請求される |
| ③連帯保証型 | 主債務者と連帯保証人で契約(1つのローン) | 主債務者が滞納すると、保証人が一括で支払う |
離婚協議で「家を出た側もローンを払い続ける」と取り決めたとしても、次のような理由で支払いがストップするケースがあります。
- 不満の蓄積
- 経済的な状況の変化(悪化)
こうなると、住んでいる側だけがローンの返済をすることになるため、とても揉めます。
支払いが滞れば、差し押さえられ、競売にかけれられて、最終的には退去しなくてはいけなくなります。
それでもローンが残っている場合は、その支払いが続きます。
【デメリット④】家が競売になる
競売(けいばい)とは、住宅ローンなどの借金が返済できなくなった際に、債権者(金融機関など)が裁判所を通じて強制的にオークション形式で売却する法的な手続きのことです。
住宅ローンの滞納が続くと、共有名義の家全体が競売にかけられ、住んでいた側が退去せざるを得なくなります。
また、一方がカードローンなどの返済ができなくなると、一方の持分だけが競売にかけられ、買取業者などが落札した後は、持分の買取交渉を受けます。
交渉が上手くいかない場合は、共有物分割請求訴訟で、家全体が競売にかけられます。
より詳しくは「共有持分が競売にかけられるとどうなる?」でご確認いただけます。
【デメリット⑤】売却するのに揉める
「まだ住みたい」「売って清算したい」と意見が対立することがあります。
また、売却までに何度も連絡を取り合い、協力する必要があり、その間に感情的な対立が起こることがあります。
【デメリット⑥】相続が発生して揉める
元配偶者のどちらかが亡くなった時に、亡くなった元配偶者の相続人が、新たな共有者として加わります。
例えば、元夫が亡くなった場合、その持分は元夫の相続人(再婚相手や子どもなど)が相続し、共有者になるということです。
面識のない人とのやり取りでストレスを受けるだけでなく、次のようなことで揉めることがあります。
- 売却や修繕に同意が得られず手続きが進まない
- 固定資産税や修繕費の支払いで揉める
- 家賃を請求される
- 持分を勝手に売却される
- 共有物分割請求訴訟される
- 連絡が取れなくなり、処分できない
【デメリット⑦】裁判で決着をつけることになる
話し合いで共有不動産の処分や利用方法が決まらない場合、最終的に裁判で解決するしかなくなります。
例えば、「もう売却して清算したい」と考えているのに対し、他方が「住み続けたい」と売却に同意しないといった場合です。
このような場合、共有物分割請求訴訟を提訴します。
裁判になると、裁判所が次の3つの分け方の中から不動産の分け方を決定します。
- 現物分割…土地などを物理的に分ける
- 代償分割…一方が不動産を取得し、他方に代償金を支払う
- 換価分割(かんかぶんかつ)…不動産を売却し、代金を共有者で分ける
この裁判は、数ヶ月~1年かかります。
それから、弁護士費用や訴訟費用などの費用が数十万円~かかります。
判決結果で最も多いのは、競売による換価分割ですが、この場合は、家を失うことになります。
「離婚後も共有名義のままの状態」を避ける4つの対策
- 共有名義の不動産全体を売却する
- 対価なしで単独名義にする(財産分与)
- 代物弁済として処理する(財産分与)
- 一方が持分を買い取り、単独名義にする(財産分与)
それぞれご案内していきます。
【対策①】共有名義の不動産全体を売却する
共有者と協力して不動産全体を第三者に売却し、その代金を分け合うという方法です。
誰も家に住む予定が無い場合に実施できます。
売却するので単独名義にはなりません。
住宅ローンがない場合
2人の同意があれば自由に売却できます。
売却後は、売却代金から諸費用(仲介手数料、登記費用など)を差し引いた残額を、財産分与の原則(通常は2分の1ずつ)に従って分け合います。
例えば、5,000万円の共有不動産を売却し、諸費用を引いて4,500万円の利益が出たら、1人あたり2,250万円になるということです。
アンダーローンの場合(不動産の価値 > 残債)
アンダーローンとは、家を売却すれば、住宅ローンの残債を完済できる状態のことです。
この状態の場合は、売却代金でローンを完済し、諸費用を差し引いた残額を財産分与として分け合います。
例えば、5,000万円の共有不動産を売却し、住宅ローンを完済し、諸費用を引いた金額が800万円なら、1人あたり400万円になるということです。
オーバーローン の場合(残債 > 不動産の価値)
オーバーローンとは、家を売却しても、住宅ローンが残ってしまう状態のことです。
この状態の場合は、売却しても家の抵当権が残ってしまうため、通常の売却はできません。
抵当権とは、住宅ローンを借りた際に、金融機関が返済を確実に回収するために設定する権利のことです。
ですので、次の2つの方法をご検討ください。
- 住宅ローンの不足分を自己資金で補って売却する
- 任意売却をする
任意売却とは、住宅ローンを返済できない場合に、金融機関の承諾を得て不動産を売却する方法のことです。
2人が協力して金融機関と交渉し、金融機関が抵当権の抹消に同意すれば、任意売却をすることができます。
【対策②】対価なしで単独名義にする(財産分与)
一方の配偶者が持分を無償で放棄し、もう一方が単独名義にする方法です。
財産分与として処理する場合は、離婚に伴う財産分与の一環として、一方が他方に不動産の持分を譲渡します。
この方法なら、妻(or 夫)が住み続けることができます。
この場合、贈与税は非課税です。
ただし、住宅ローンが残っている場合、金融機関の承諾を得て債務者の変更や借り換えを行う必要があります。
ですが、返済能力が低いと審査に通らないケースが多いです。
例えば、残債が3,000万円で、金利1.0%で残り25年の場合、毎月約11万円返済することになります。
生活費を考えると月収が額面で36万円以上無いと、審査通過は難しいです。
【対策③】代物弁済として処理(財産分与)
代物弁済(だいぶつべんさい)とは、本来の債務(お金など)の支払いに代えて、別の物(不動産など)を渡すことで債務を消滅させる方法のことです。
例えば、夫が妻に慰謝料500万円を支払う義務がある場合に、夫の持分(評価額500万円相当)を妻に譲渡して、その義務を相殺するといったことです。
この方法なら、妻(or 夫)が住み続けることができます。
【対策④】一方が持分を買い取り、単独名義にする(財産分与)
配偶者の一方が、もう一方の持分を適正価格で買取ることで、単独名義にする方法です。
不動産に住み続けたい側が、相手の持分を購入します。
ローンがない場合
まとまった現金があれば、不動産の持分相当の金額を支払って購入します。
その後、所有権移転登記を行い、単独名義にします。
-
買う側は、持分相当の金額の他に、不動産取得税、登録免許税が必要です。
売る側は、取得時より値上がりしている場合は、譲渡所得税を支払います。
アンダーローンの場合(不動産の価値 > 残債)
単独名義にする側が次のことを行います。
- 相手に持分に応じた住宅ローンの負担額を支払う
- 金融機関の承諾を得て、借り換えをしてローンを単独で返済する
-
50%ずつの持分の4,000万円の共有不動産があり、住宅ローンの残債が2,000万円だった。
妻は子供のためにこの家に住み続けたかった。
妻の単独名義にするため、夫に持分相当額から住宅ローン負担分を差し引いた現金1,000万円を支払い、住宅ローン残債2,000万円を妻名義で借り換えた。
この場合、返済する人には十分な収入や信用力が必要です。
金融機関は単独での返済能力を審査するからです。
オーバーローンの場合(残債 > 不動産の価値)
買取は難しいです。
財産分与で無償で持分を譲渡してもらい、単独名義にする人が残りの住宅ローンを全て返済することはできます。
ですが、金融機関が単独での返済能力を厳しく審査します。
特に共働き前提で組んでいた場合、実現できないケースが多いです。
離婚で共有不動産の名義を変更する手順、費用
- 財産分与の協議
- 協議で決まらなければ調停・審判
- 持分移転登記の実施
ご案内いたします。
【手順①】財産分与の協議
財産分与とは、離婚によって夫婦間の財産関係を清算することです。
離婚時に夫婦共有の不動産がある場合、まずは財産分与の協議を行います。
協議がまとまったら、後々のトラブルを防ぐためにも、財産分与契約書や離婚協議書に合意内容を明確に記載し、公正証書にしておいてください。
こうしておけば、金銭を支払わない場合に強制執行できます。
-
夫が70%、妻が30%ずつお金を出し合って購入した共有名義の4,000万円の不動産があり、住宅ローン残債が1,000万円、貯金が2人で1,000万円ある状態で離婚した。
財産分与で資産を50%ずつ分けるにあたって、子供の教育環境を変えたくない妻は、不動産を取得することになった。
夫の取り分2,000万円(4,000万円÷2)から貯金1,000万円を差し引いた1,000万円を、代償金として妻が夫に支払うことになった。
銀行は妻による返済に承諾をした。
夫は2,000万円(貯金1,000万円+代償金1,000万円)を手に入れ、妻は代償金1,000万円を親から借りて賄い、ローン残債1,000万円を妻名義で借り換えて返済することになった。
【手順②】協議で決まらなければ調停→審判
協議で合意できない場合は、家庭裁判所に財産分与請求の調停を申し立てます。
調停では、調停委員が間に入って話し合いを仲介します。
合意すれば「調停調書」に記録され、法的効力を持ちます。
調停が成立しなかった場合は、自動的に審判手続きに移行し、裁判所の審判で財産分与の内容が決定します。
【手順③】持分移転登記の実施
財産分与が決まったら、不動産の所在地を管轄する法務局で持分移転登記を行います。
- 協議・公正証書による場合…元夫婦が共同で登記申請する
- 調停調書・審判書・判決による場合…取得者が単独で登記申請できる
必要な書類は次の通りです。
| 書類 | 概要 |
|---|---|
| 登記申請書 | 法務局に提出する正式な申請書 |
| 登記原因証明情報 | 離婚の事実と財産分与の合意内容が明記された離婚協議書、公正証書、調停調書、審判書など |
| 登記識別情報 | 譲渡する側の権利証 |
| 住民票 | 取得する側のもの |
| 印鑑証明書 | 譲渡する側のもので発行から3ヶ月以内 |
| 固定資産評価証明書 | 登録免許税の算出に使用 |
| 委任状 | 司法書士などの代理人が申請する場合 |
手続きは本人でもできますが、手間や時間などを考慮して、司法書士にお任せする人が多いです。
名義変更にかかる税金と費用は次の通りです。
| 項目 | 内容・目安金額 |
|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産評価額 × 2.0% |
| 司法書士報酬 | 書類作成・申請代行、約5万円~ |
| 書類発行手数料 | 住民票・印鑑証明など、数千円 |
| 譲渡所得税 | 不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た際にかかる国税 |
財産分与で不動産を取得した場合、不動産取得税や贈与税は非課税です。
財産分与で不動産を譲渡した側は、不動産の時価が取得費を上回る場合、譲渡所得税が課税される可能性があります。
ただ、離婚成立後に住んでいた不動産を譲渡する場合、3,000万円特別控除の適用を受けることができます。
まとめ
離婚したのに共有名義の不動産の名義変更をしていない場合、デメリットが多いです。
このページでご案内している4つの方法で解消することをご検討ください。
