「共有名義の不動産って、売却できないの!?」
「自分の分だけなら売却できるみたいだけど…?」
このように考えていませんか?
このページでは、共有名義の不動産を売却できないのかどうかを、専門家が分かりやすくご案内します。
目次
「共有名義の不動産は売却できない」は誤解!あなたの持分だけならOK
- 「共有名義の不動産のうち、自分の持分(もちぶん)だけなら売却できる」の図
共有名義の不動産のうち、あなたの共有持分だけなら、あなたの判断で売却できます。
この機会にご一読をお願いいたします。
- 共有名義…1つの不動産を複数の名義人で所有している状態。
- 共有名義の不動産…所有者として複数の人の名義(名前)が登記されている不動産。
- 共有持分…各名義人(所有者)が所有している不動産の権利(所有権)の割合のこと
持分とは、所有権の割合のことです。
所有権を売ることはできます。
あなたの共有持分だけなら、あなたの判断で売却できる理由は、あなたに所有権があるからです。
法的な根拠は民法第206条「所有権の内容」です。
- 所有権の内容…所有者には自由に所有物の使用や処分をする権利がある(意訳)
そのため、同意や連絡など不要で、あなたの意思だけで、あなたのタイミングで売却できます。
父が亡くなり、実家を母(持分2分の1)と兄と弟(持分3分の1ずつ)の共有名義で相続した。
兄は入用だったので持分(3分の1)を売却したいと考えていた。
いろいろな業者に査定をいらしたが、その中で対応が親切で丁寧だった共有持分支援協会に売却した。
この時、母や弟の同意や許可、それから事前の連絡や売却後の報告もしなかった。
何も問題なく、売却代金が兄の通帳に振り込まれた。
念のためですが、他の共有者が所有する持分については、あなたの判断では売却できません。
他の共有者に所有権があるからです。
共有名義の不動産を売却する方法は3つある!そのうち「できない」のは…
- あなたの持分だけを売却する
- 単独名義の不動産として売却する
- 不動産を分筆して売却する
このうち、できないケースが多いのは②と③の売却方法です。
それぞれ詳しくご案内します。
【方法①】あなたの持分だけを売却する
先ほどご案内した通り、共有名義の不動産の中の、あなたの持分だけなら、あなたの判断で自由に売却できます。
他の共有者の同意や許可、連絡、相談、報告は不要です。
ですので、次のような場合でも売却できます。
- 反対する共有者がいる
- 共有者が住んでいる
反対者がいても、誰かが住んでいても売却できます。
父(93)が他界し、実家を母(89)と3人兄弟で共有名義で相続した。
次男(61)が(共有不動産はみんなのものだから、自分一人の判断だけでは売れないよな…)と思って調べたところ、「自分の持分だけなら売却できる」と書いてあった。
次男の持分は6分の1。
(不動産会社が買っても、6分の1じゃ、どうにもならないのでは?)と半信半疑なまま、思い切って専門業者に連絡をした。
どうやら本当に売れるっぽいので、手付金があり、対応が素早かった共有持分支援協会に依頼して売却した。
思わぬ臨時収入が入った。
20年前に市街地の新築マンションを、夫と共有名義で購入した。
ローンの支払いはほぼ夫のみだが、2分の1ずつの持分にしていた。
離婚することになり、妻が(夫が住んでるけど、私はもう住まないし、当面のお金がいるし…)と、買取業者に連絡をした。
住宅ローンを完済していたため、売却できるようだった。
できるだけ現金が欲しいので、仲介で高く売却してくれそうな共有持分支援協会に依頼して売却した。
無事、引越できた。
このように、共有名義の不動産は、所有している持分だけなら自由に売却できます。
ただ、その買取価格の相場は、実勢価格の30%~50%程度です。
- 実勢価格(じっせいかかく)…実際にその不動産が売買された価格。市場価格、時価とも呼ばれる
より詳しくはこちらの「共有持分の買取金額の相場は一般の不動産価格の30~50%」をご覧ください。
【方法②】単独名義の不動産として売却する ←できないケースが多い
- 単独名義の不動産…名義人が一人だけで、その人の所有権の割合が100%の不動産のこと
単独名義の不動産として売却する場合は、売却した後の代金を、持分の割合に応じて分配します。
できないケースが多い理由は、共有名義の不動産を単独名義にして売却する場合は、共有者全員の同意が必要だからです。
全員で協議できる関係性があるなら、この方法を選択できます。
ですが、お金と感情が絡むと話し合いがうまくいかないことが多いです。
父(88)が他界し、実家を母(83)と兄弟で共有名義で相続した。
「売却して、母が施設に入るための費用にしよう」と全員で話をして、テレビCMで見たことがある不動産会社に連絡した。
母の持分は2分の1で、売却したら施設に入るのに十分な金額になることが分かった。
その不動産会社のサポートを受けて共有名義を単独名義にする手続きをし、売却後に残ったお金を、それぞれの持分に応じて分けた。
母が無事、入居できた。
先ほども触れましたが、共有名義の不動産の売却相場は、単独名義の不動産の30%~50%です。
単独名義での売却の方が金銭的なメリットは大きいです。
共有者全員で協議をスムーズに進められる関係性なら、単独名義での売却をご検討ください。
ただし、実際はお金のことで揉めることが多いです。
【方法③】不動産を分筆して売却する ←できないケースが多い
- 分筆(ぶんぴつ)…1つの土地を、2つ以上の土地に分けること
分筆後の不動産が、あなた名義の不動産なら自由に売却できます。
その不動産については、100%の所有権があるからです。
具体的には次のようなパターンがあります。
父が他界し、母と兄と弟で遺産分割協議をすることになった。
父は100坪(約330㎡)の土地を所有していた。
兄が共有名義ではなく、分筆を希望したので、法定相続分に応じて、母が50坪(約165㎡)、兄と弟で25坪(約82.5㎡)ずつに分けて相続した。
分筆前は住所が123番地だったが、分筆後は「123番地1」「123番地2」「123番地3」になった。
父が他界し、父が所有していた100坪(約330㎡)の土地を、母と2人兄弟の共有名義で相続した。
持分は母が2分の1で、兄と弟でそれぞれ4分の1ずつだった。
その後、共有物分割協議を行い、母が50坪(約165㎡)、兄と弟で25坪(約82.5㎡)ずつで分筆した。
できないケースが多い理由は、分筆するには、関係者が協議をする必要があるからです。
やはりお金のことで揉めることが多いです。
もし共有者間の関係が良好で、分筆しても十分に活用できる坪数(㎡)になるようでしたら、ご検討ください。
その目安は次の通りです。
- 都内で15坪(約50㎡)以上
- 市街地、郊外で30坪(約100㎡)以上
分筆後に上記の大きさがあれば活用できますが、これよりも小さい場合は、次のどちらかの方法をご検討ください。
共有名義の不動産を売却できない6つのケース
- 他の共有者の持分を売却したい
- 単独名義で売却したいが共有者が同意しない
- 単独名義で売却したいが共有者と連絡が付かない
- 単独名義で売却したいが共有者が判断できない
- 住宅ローンが残っている
- 相続後に持分割合を登記していない
それぞれご案内します。
【ケース①】他の共有者の持分を売却したい
- 他の共有者の持分は同意なく売却できない
共有名義の不動産のうち、他の共有者の持分はについては、あなたには権利が無いため、売却できません。
他人の財産を本人の同意が無い状態で、黙って勝手に売ろうとしてもできません。
ただし、次の場合は対策があります。
- 共有者と連絡が付かない
- 共有者が判断ができない
【ケース②】単独名義で売却したいが共有者が同意しない
先ほどご案内した通り、単独名義にして売却する場合は、他の共有者”全員”の同意がなければ売却できません。
他の共有者が所有している持分については、他の人に権利があるからです。
他の共有者が同意しない主な理由は次の通りです。
- まだ利用している
- まだ残しておきたい
- 買取価格に納得できない
- 相手と話したくない、関わりたくない
- 相手の持分を買取りたい
- 賃貸業をしたい
父(91)が他界し、実家を母(87)と3人の兄弟で共有名義で相続した。
次男(61)が駅前の不動産会社に連絡をしたら、「現状では、当社では対応できかねます」と言われた。
「ネットで調べたら、売れるって書いてあった」と伝えたところ、「皆様の同意がございましたら、問題ありません」と言われた。
どうやら単独名義にしないと、この不動産会社は対応しないらしい。
長男(63)に連絡すると「母が住んでるし、思い出が詰った家だから、俺は反対だな」と言われた。
三男(58)は「これから不動産の価格、もっと高くなるみたいだよ。待とうよ。」という意見だった。
次男は単独名義にして売却するのは諦め、自分の持分だけ売ることにした。
現金化が早そうで、対応が丁寧だった共有持分支援協会に売却を依頼した。
どうしても単独名義にしたいという人は、次の方法をご検討ください。
- 共有者と交渉して相手の持分を買取る
- 共有持分の買取請求をする
- 共有物分割請求訴訟をする
いずれの方法も、相応の費用や時間がかかりますし、共有者の関係が悪化しないように、慎重に進める必要があります。
失敗や後悔の無いように、最初の段階で弁護士に相談して進めてください。
なお、賃貸をする場合は、全員ではなく、持分過半数の同意が必要です。
ほとんどの場合、家賃収入は持分に応じて分配されます。
例えば、相続した実家を家賃9万円で貸した場合、持分が6分の1なら、家賃収入は毎月1.5万円です。
【ケース③】単独名義で売却したいが共有者と連絡が付かない
連絡が付かないとは、家族や親せき、友人、知人などをあたっても、連絡先や住所が分からないということです。
連絡が付かなくなる主な理由は次の通りです。
- 何度も転居をしている
- 海外に移住している
- 何度も相続を繰り返している
この場合は、次のような対策があります。
- 「不在者財産管理人」の選任を申し立てて単独名義にする
- 「共有物分割請求訴訟」で単独名義にする
- あなたの持分のみを売却する
不在者財産管理人とは、行方不明者の財産を、本人に代わって管理・保全する人のことです。
候補者は配偶者や兄弟姉妹、弁護士、債権者などです。
利害関係者のあなたが、家庭裁判所に申し立てて選任し、裁判所の許可を得て不在者の持分を取得できれば単独名義にできます。
共有物分割請求訴訟とは、共有者のあなたが、他の共有者に対して、共有状態を解消するために提起する訴訟のことです。
裁判所は3つの分割方法(①現物分割、②代償分割、③換価分割)の中から判断します。
あなたがうまく立ち回り、代償分割になれば、他の共有者の持分に相当する代償金を払って買い取ることで、単独名義にすることができます。
なお、行方不明者がいる場合は、不在者財産管理人を選任してから、訴訟の手続きをすることになります。
どちらも専門知識が無い人には難易度がとても高いです。
不動産についての知識が無ければ、利益を最大にすることができません。
共有名義の不動産のプロを探してご依頼ください。
【ケース④】単独名義で売却したいが共有者が判断できない
共有者が判断できないとは次のような状態のことです。
- 認知症などにより著しく判断力が低下している
- 精神的な疾病、重度の傷害などで判断できる状況にない
- 事故や重篤な病気などで意識不明な状態が続いている
この場合は、「成年後見制度」を利用することになります。
認知症、知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な成年者を、法律的に保護する制度のことです。
家庭裁判所が選任した後見人(家族や親族、弁護士など専門職など)が、契約・財産管理・行政手続などを本人に代わって安全に行います。
家庭裁判所に申立てをしてから2~4か月かかります。
手続きは司法書士(数万円~)や弁護士(10万円~)に依頼します。
こちらも、単独名義にできるのは、共有名義の不動産のプロだけです。
【ケース⑤】住宅ローンが残っている
住宅ローンを借りているということは、不動産に抵当権が設定されている状態ということです。
- 抵当権…金融機関が不動産を担保にしてお金を貸し、その返済が不能になったら、担保不動産を競売にかけて回収する権利
この抵当権が残ったままでは、売却は極めて難しいです。
3年前に都心のマンションを夫と妻の共有名義で購入した。
離婚することになり、何かと入用の妻が調べたところ「誰かが住んでいても、自分の持分だけなら売却できる」と知った。
まだ夫が住んでいるが、当面のお金が必要なので、買取業者に連絡をした。
すると「住宅ローンが残っており、抵当権が取れないため、今のままでは買取できません」と断られた。
説明はよく分からなかったが、住宅ローンが残ったままでは売却できないことだけは理解した。
住宅ローンを完済できれば、抵当権が抹消されるため、売却できるようになります。
ですので、持分の売却代金でローンを完済できるなら売却できる可能性があります。
金融機関に住宅ローンの残りを確認し、買取に対応している会社に持分の査定をしてみてください。
また、まれに住宅ローンの名義が1人で、1人の持分にのみ抵当権が設定されていることがあります。
この場合は、一方の持分を売却することができます。
住宅ローンを借りた金融機関に、住宅ローンの残債や抵当権の設定内容について、確認してみてください。
【ケース⑥】相続後に持分割合を登記していない
- 登記…不動産の権利関係などを公的に記録・公示し、法的に保護する制度
相続後に登記をしていない主な理由は次の通りです。
- 遺産の分割で争っている
- 何らかの理由で遺産分割協議が済んでいない
- 登記費用を負担したくないので先延ばしにしている
- その他、手続きを行わない何らかの理由がある
この場合は、登記内容が確定するするまでは売却できません。
不動産の登記簿上の名義人(所有者)が、亡くなった人(被相続人)のまま変わっていないからです。
なお、2024年(令和6年)4月1日に、相続登記が義務化されました。
相続登記の義務化とは、相続の発生を知った3年以内に相続登記をしなければならないということです。
以前は任意でしたが、2024年4月1日に法律で義務化されました。
理由は、所有者が不明な土地が増えすぎ、公共事業や土地活用などができない状況が発生しているためです。
参照)法務省「相続登記の申請義務化」
3年以内に登記をしていないと、法務局などが「正当な理由(相続人同士のトラブル、大病、認知症など)がある」と認めない限り、10万円以下の過料が科されます。
- 過料(かりょう)…義務違反に対して科される金銭的な制裁措置
登記の費用は、不動産や依頼する司法書士によりますが、4万円~15万円程度です。
共有持分を売却するなら必須の5つの知識
- 売却後にトラブルになるリスクがある
- 売却の相場
- 業者の選び方
- 売却する手順
- 売却する場合の費用
共有名義の不動産を売却した後に「失敗した…」と悔やんでいる人がいます。
ぜひご一読ください。
①売却後にトラブルになるリスクがある
売却するとどうなるのかというと、所有権が新たな共有者に移ります。
新たな共有者とは、買主(買取業者や大家、投資家など)のことです。
買主が悪徳、悪質な場合、トラブルになることがあります。
詳しくはこちらの「共有持分を売却した後、どうなる?7つのトラブルと6つの対処法を解説」でご案内しています。
②売却の相場
既にご案内している通り、共有持分の売却相場は、実勢価格の約30%~50%です。
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不動産全体の査定額が実勢線価で3,000万円で、持分が2分の1の場合、査定額は1,500万円ではなく、約450万円~約750万円です。
実勢価格より安くなる理由は、共有持分のみでは利用価値が無いためです。
30%~50%と幅が広いのは、色々な条件で価格は変わるからです。
詳しくはこちらの「共有持分の買取の相場は一般の不動産価格の30~50%」のページでご確認ください。
③業者の選び方
一般の不動産を取り扱う会社(大手や地域密着の不動産会社など)の多くは、共有名義の不動産の売却を断ります。
理由は次の通りです。
- 取り扱うには専門的な知識と相応の経験が必要
- 活用するには相応の労力や時間がかかる
ですので、売却する場合は専門の業者に依頼してください。
ただし、専門業者ならどこでもいいわけではありません。
中には、悪徳、悪質な業者がいるからです。
ですので、次のようなポイントでチェックして、良い会社を選んでください。
- 過去の買取り実績
- 利用者の口コミの内容
- 何かあった時に対応できる体制
- 実際の接客対応
- 現金化のスムーズさ
詳しくはこちらの「共有持分の買取業者・仲介業者を選ぶポイント」をご覧ください。
④売却する手順
あなたの持分だけを売却する場合の手順は、通常の不動産を売却する手順と大きく変わりません。
- 査定依頼
- 売買契約の締結
- 決済
- 所有権移転登記
もし、単独名義にして売却する場合は、全ての共有者で話し合いをして、司法書士に依頼してください。
⑤売却する場合の費用、税金など
売主側が支払う費用や税金は次の通りです。
- 印紙税(200円~6万円 ※売買価格によって変動します)
- 仲介手数料(仲介を利用した場合)
- 抵当権抹消登記(住宅ローンが残っている場合)
- 譲渡所得税(かからない場合がある)
必ずかかるのが印紙税で、金額は売却価格で異なります。
仲介業者に依頼する場合は、仲介手数料が発生します。
ですが、ほとんどの場合、仲介手数料を差し引いても買取業者よりも高額で売却できます。
より詳しくはこちらの「共有持分の買取で発生する費用を解説」をご覧ください。
共有名義は売却できない?のまとめ
共有名義を売却できないケースは6つあります。
ですが、あなたが自分の持分だけを売却するのは、あなたの意思・判断だけで自由にできます。