「ウチの場合、共有名義の相続登記をすればいいんだよね?」
「共有名義の相続登記って何?やり方や注意点などを知っておきたい」
このように考えていませんか?
この記事では、共有名義の相続登記についてプロが分かりやすく解説します。
目次
共有名義の相続登記とは?
まず、相続登記とは、亡くなった人(被相続人)が持っていた不動産の名義を、相続人の名義に変更して、所有権を移転する手続きのことです。

共有持分の相続登記とは、亡くなった人が所有していた共有不動産の一部(共有持分)を、相続人の名義に変更する手続きのことです。

共有名義とは、1つの不動産を複数人の名義で所有している状態のことです。

共有者の所有する権利の割合のことを「共有持分」といいます。

共有持分の割合は、民法の定めている「法定相続分」や相続人同士の話合いの「遺産分割協議」などで決定します。
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父と母(夫婦)の共有名義の実家があり、それぞれ持分を2分の1ずつ所有していた。
先日父が亡くなったため、法定相続分に沿って、父の持分2分の1を、母と2人の子供で分けて、共有名義の相続登記をした。
結果、母の持分が4分の3、子供の持分が8分の1ずつになった。

共有名義の相続登記を行うケース
- 父と母の共有名義の実家があり、亡くなった父の持分を母1人が単独名義で相続した
- 父と母の共有名義の実家があり、亡くなった父の持分を母と子供2人で相続した
- 兄と弟の共有名義の戸建があり、亡くなった兄の持分を兄の配偶者と子供で相続した
- 父と子の共有名義の戸建があり、亡くなった父の持分を子が単独名義で相続した
- 夫と妻の共有名義の区分マンションがあり、亡くなった夫の持分を妻が単独名義で相続した
- 夫と妻の共有名義の区分マンションがあり、亡くなった夫の持分を妻と子供1人で相続した
色々なケースがありますが、相続で持分の所有者が変わる場合にするのが、共有名義の相続登記ということです。
間違いやすい「単独名義の不動産の相続登記」

こちらのイラストで分かることは、父が亡くなったことで、父の単独名義の不動産を、母と2兄弟の共有名義で相続をしたということです。
「単独名義の相続登記をした結果、共有名義になった」ということですので、共有名義の相続登記ではありません。
繰り返しになりますが、共有名義の相続登記は、共有名義の不動産の一部(持分)を相続した際にする登記のことです。
相続登記を”しなければいけない”理由
理由は、2024年4月に相続登記が義務化されたからです。

画像引用)東京法務局「相続登記が義務化されました」
義務化された理由は、日本が超高齢社会化する中で、不動産の所有者が誰か分からない不動産が増えすぎた結果、次のような事態が起こっているからです。
- インフラの整備や災害復旧などができない
- 空き家に不法投棄されている
- 治安が悪化した
- 固定資産税の課税ができない(漏れている)
相続登記をしないと、どうなる?
次のようなことが起こります。
- 10万円の過料が科される(可能性がある)
- 相続人同士でトラブルが起きやすくなる
「10万円の過料」について
相続登記の義務化によって「相続人が相続開始を知った日から3年以内に登記申請」をしなければならなくなりました。
この3年という期限を、正当な理由なく過ぎてしまうと10万円以下の過料(罰金のようなもの)が科されます。

正当な理由とは、次のようなことです。
- 連絡が取れない人が多い
- 災害からの復旧でそれどころではなかった
- 他の相続人との裁判が長引いた
過去に相続があった不動産(建物・土地)も対象です。
「相続人同士でトラブルが起きやすくなる」について
トラブルとは、次のようなことです。
- 不動産にかかる税金や修繕費の負担で揉める
- 活用(売却、賃貸、住むなど)の方針を巡って揉める
- 共有者が増えて不動産を処分できなくなる
詳しくは「6つのデメリット」でご案内していますので、ご確認ください。
相続登記をして、不動産の名義を現状に沿った正しい状態にすることで、法的な紛争・トラブルが発生するのを予防しやすくなります。
共有名義の相続登記を行う手順と書類、費用
- 相続登記を行う手順
- 相続登記で必要な書類
- 相続登記で発生する費用
❶相続登記の6つの手順
| 手順 | 概要 | 
|---|---|
| ①相続人を確定する | 亡くなった方の戸籍謄本や除籍、改製原戸籍(戸籍制度が改正前の古い戸籍)を取得して、相続人を確定する | 
| ②遺産分割協議で共有持分を決める | 相続人全員で話し合い、誰がどの財産(被相続人の共有持分を含む)をどの割合で相続するか決める | 
| ③必要な書類を準備する | 戸籍謄本、住民票、遺産分割協議書、印鑑証明書などを揃える | 
| ④登記申請書を作成する | 所有権移転の目的、相続原因、不動産情報などを記載し、添付書類と一緒にまとめる | 
| ⑤法務局に書類を提出する | 申請書と必要書類を法務局に提出し、手数料(登録免許税)を納付する | 
| ⑥登記が完了する | 法務局で審査・登記が受理され、登記簿上の名義が相続人に変更され | 
相続した共有名義の不動産を相続登記する手順は、上記の通りです。
相続人で話し合った結果を登記申請書に記載し、必要書類とともに法務局に提出し、その審査が通れば、登記は完了です。

登記事項証明書で、共有名義と共有持分が「権利部(甲区)(所有権に関する事項)」に記載されていることをご確認いただけます。
司法書士に相続登記を依頼すれば、全てを代理してくれます。
❷必要な書類
| 亡くなった方の戸籍謄本 | 生まれてから亡くなるまでのすべて | 
|---|---|
| 亡くなった方の住民票の除票 | 最終住所を確認する必要があるため | 
| 相続人の戸籍謄本 | 相続人の全員分が必要 | 
| 相続人の印鑑証明書 | 遺産分割協議書に実印を押印するから | 
| 固定資産評価証明書 | 登録免許税の計算に必要 | 
| 遺言書 | ある場合は必要 | 
| 遺産分割協議書 | 共有の持分の記載と、全員の署名・実印押印が必要 | 
| 相続登記申請書 | 亡くなった人の不動産を相続人の名義に変更するために法務局に提出する書類 | 
| 委任状 | 司法書士に依頼する場合に必要 | 
共有名義で相続登記をする際に必要な書類は、上記の通りです。
遺産分割協議書の他は、市区町村の役場や法務局で入手できるものが多いです。
なお、法的に有効な遺言書がある場合は、遺産分割協議書は不要です。
❸発生する費用
| 費用 | 概要 | 
|---|---|
| 登録免許税 | 不動産の固定資産評価額の0.4% | 
| 各種書類の取得費用 | 5,000~10,000円程度になることが多い | 
| 司法書士報酬 | 5万円~ | 
共有名義での相続登記を自力で行う場合の費用は上記の通りです。
固定資産評価額は、毎年送られてくる固定資産税の通知書に記載されています。
市区町村の役所で、固定資産評価証明書を取得することもできます。
相続登記の手続を司法書士に依頼する場合、登録免許税・書類取得費用に加えて、5~15万円程度の依頼費用がかかります。
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横浜市戸塚区にある父と母の共有名義の不動産(固定資産税評価額5,000万円)があり、先日、父が他界した。
法定相続分で3名(母、兄弟)に分けることになり、相続登記をしたら費用は合計約30万円だった。
【内訳】
●登録免許税…20万円(5,000万円 x 0.4%)
●司法書士報酬…6.6万円
●書類取得等…約3.4万円
共有名義で相続登記することによる3つのメリット
- 相続登記の期限に間に合わせられる
- 話し合いを先送りできる
- 公平に遺産を分割できる
詳しくご案内します。
【メリット①】相続登記の期限に間に合わせられる
先ほど、義務化の箇所でご案内した通り、相続登記の期限は、相続人が相続開始を知ってから3年以内です。
期限に間に合わせられる理由は、遺産分割協議がまとまっていなくても、法定相続分で共有名義の相続登記を先に行うことができるからです。
例えば、2分の1の持分を配偶者と子供3人で法定相続分にそって相続登記すると、配偶者の持分は4分の3、子供の持分はそれぞれ12分の1となります。
完了すれば、相続登記義務化による10万円以下の過料(罰金のようなもの)の対象になりません。
その前に登記を完了なさってください。
【メリット②】話し合いを先送りできる
先送りできる理由は、一旦相続登記をするので、相続登記漏れの過料(≒罰則)を気にせずに、相続した共有者同士で、じっくりと不動産の活用や管理などについての話し合いができるからです。

持分が決まったということは、権利関係は決まっているということです。
この状態で話し合うのは、次のような内容です。
- 不動産の活用方法(売却、賃貸、住み続けるなど)
- 不動産の維持費、管理費の支払いの分担
- 固定資産税の支払いの分担
共有者全員で話し合って決めるのですが、専門家(不動産会社、弁護士などの士業)に入ってもらうことが多いです。
【メリット③】公平に遺産を分割できる
例えば、4人兄弟の相続人がいる場合に、法定相続分にそって、被相続人(亡くなった人)の共有持分を共有名義で持分4分の1ずつで相続するといったことです。
公平に分割すれば、「自分の取り分が少ない」といった揉めごとは起きづらいです。
遺産分割協議の場合、仮に不動産の持分の割合が公平でなかったとしても、公平感・納得感を出すために、その他の代替方法(相当額のお金を渡すなど)で補います。
この相続登記をすることによる6つのデメリット
- 不動産の活用に制限がある
- 持分を勝手に売却されることがある
- 不動産担保融資を断られることがある
- 各種負担を巡ってトラブルになりやすい
- 相続が重なると共有者が増える
- 共有関係の解消に費用がかかる
「共有名義の相続登記をして、複数の相続人で共有名義にすることで、どんなデメリットがあるのか?」について、詳しくご案内します。
【デメリット①】不動産の活用に制限がある
共有不動産を貸す・売るなどの活用するには、共有者の同意が必要になることがあります。
単独でできる行為と他の共有者の同意が必要な行為は次の通りです。
- 行為と必要な同意
| 行為の種類 | 内容 | 共有者の同意 | 
|---|---|---|
| 保存行為 | 現状を維持する行為 ・マンションの修理、修繕 | 単独でできる(同意は不要) | 
| 管理行為 | 利用する行為 ・第三者への貸し出し | 過半数の同意が必要 | 
| 変更行為(軽微な変更) | 著しい変化をともなわない行為 ・間取りを変えないリフォーム | 過半数の同意が必要 | 
| 変更行為(上記以外の変更) | 形または性質に変化を与える行為 ・共有物の売却、大規模な改修 | 全員の同意が必要 | 
※引用)共有名義のマンションとは?自分の持分だけならいつでも売却できる!
例えば、共有者の1人でも売却などに反対すると、不動産全体の売却はできません。
対策は、活用方法を話し合いであらかじめ決めておき、合意書を作成することです。
相続人同士の話し合いが進まない場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。
共有者の同意や許可は不要です。
詳しくはこちらの「共有持分の売却について専門相談員が解説」でご案内しておりますので、興味のある方はご一読ください。
【デメリット②】持分を勝手に売却されることがある
前述の通り、自分の持分だけなら、他の共有者の同意が不要で自由に売却できます。

勝手に売却されると、将来的に売却することを計画していてもできなくなってしまいます。
その不動産に、これからも住み続けることを考えている場合、将来的には退去することになります。
というのも、買取業者は共有状態を解消(売却などの現金化)をして、利益を得ることを目的としているからです。
買取業者は、持分を買い取った後、全ての持分を買うために他の共有者と交渉し、それが決裂した場合は訴訟をして、強制的に共有状態を解消します。
状況によっては家を出て行かなくてはならなくなります。
詳しくはこちらの「共有物分割請求訴訟とは?」をご覧ください。
対策は、相続人同士で話し合って、その内容を合意書にまとめておくことです。
【デメリット③】不動産担保融資を断られることがある
自分が持っている持分だけでは、銀行の不動産担保ローンの審査に非常に通りづらいです。
理由は、持分だけだと資産としての価値が低いからです。
対策は、持分だけの融資に対応しているノンバンクの金融機関を見つけることです。

【デメリット④】各種負担を巡ってトラブルになりやすい
不動産を所有すると、固定資産税や修繕などの負担が発生します。
共有名義の不動産の場合は、共有持分の割合に応じて、負担義務があります。
例えば、固定資産税が毎年18万円かかっていて、持分が3分の1ずつなら、1人あたり6万円を負担する義務があるということです。
共有者の中には、「自分は利用していないのに負担したくない」といった理由で負担を拒否する人が出てくることがあります。

対策は、共有持分の割合に応じて負担するなどといったルールを決め、書面にしておくことです。
【デメリット⑤】相続が重なると共有者が増える
共有名義の不動産で相続が発生すると、相続する人数分、共有者が増えます。

共有者が増えすぎると、次のようなことが起こりやすくなります。
- 各者への連絡に時間や手間がかかる
- 連絡が付かない人が出てくる
- 何も決められない
- 活用や費用負担で揉めやすくなる
対策は、共有状態を解消することです。
その方法はこちらの「共有名義を解消する6つの方法」で詳しくご案内していますので、ご覧になってみてください。
ただし、解消には費用がかかります。
【デメリット⑥】共有関係の解消に費用がかかる
トラブルなどを解決するための、共有関係を解消する方法は5つあります。
それぞれ費用がかかります。
| 方法 | 概要 | 必要になる費用 | 
|---|---|---|
| ①自分の持分だけを売却する | 持分を第三者に売る方法 | 不動産の仲介手数料など | 
| ②代償分割を行う | 1人が単独相続し他に現金を払う方法 | 登録免許税など | 
| ③換価分割(かんかぶんかつ)を行う | 不動産を現金化して分ける方法 | 仲介手数料など | 
| ④分筆(現物分割)する | 土地を分けて単独名義で登記する | 測量費用など | 
| ⑤共有物分割請求訴訟 | 裁判所が分割方法を決める | 訴訟費用・弁護士費用など | 
相続登記で共有名義になった不動産を解消する5つの方法
- 自分の持分だけを売却する
- 代償分割を行う
- 換価分割を行う
- 分筆(現物分割)する
- 共有物分割請求訴訟を提起する
詳しくご案内します。
【方法①】自分の持分だけを売却する
相続人の1人が自分の持分を、他の相続人や第三者に売却する方法です。

例えば、持分を買い取ってくれる会社に依頼して、持分の3分の1を売却するといったことです。
メリットは、他の相続人の合意なしで自分の持分を速やかに現金化できることです。
デメリットは、持分だけを売却すると売却額が相場より安くなってしまうことです。
具体的には、不動産全体で売却する場合の価格の30%~50%OFFになります。
例えば、3分の1の持分を所有している6,000万円相当の不動産を売却する場合、持分を売却すると2,000万円ではなく、600万円~1,000万円になります。
【方法②】代償分割を行う
前述の通り、代償分割とは、共有する不動産を特定の相続人が単独で取得をして、その代わりに代償金(現金)を支払う方法のことです。
例えば、長男が6,000万円相当のマンションを単独で相続登記して、姉と妹に、2,000万円ずつ支払うといったことです。
メリットは、1人が単独所有するので管理・利用がしやすいことです。
デメリットは、代償金を準備できる人がいないとできないことです。
【方法③】換価分割(かんかぶんかつ)を行う
換価分割とは、共有する不動産を売却して現金化して、売買代金を持分の割合に応じて分ける方法のことです。
例えば、4人の相続人全員が合意のもとで、土地を4,000万円で売り、4人で1,000万円ずつ分配するといったことです。
メリットは、相続人全員に平等に分割しやすいことです。
デメリットは、相続不動産に人が住んでいる場合、公平で納得のできる落としどころを見つけるのが難しいことです。
【方法④】分筆(現物分割)する
土地を分けて各相続人が単独名義で切り分けられた不動産を所有する方法です。

例えば、土地を2等分して、2人の相続人がそれぞれ単独登記を行います。
メリットは、将来の共有者同士のトラブルなどを防げることです。
デメリットは、分筆の費用が数十万円~かかってしまうことです。
【方法⑤】共有物分割請求訴訟を提起する
共有物分割請求訴訟とは、裁判所に「代償分割」「換価分割」「現物分割」のどれかの分割方法を決めてもらって、強制的に分割する方法のことです。

例えば、裁判所が換価分割が適当だと判断した場合、不動産を売却して代金を各相続人に割り振る(換価分割)といったことを行います。
メリットは、相続人間で合意できなくても、裁判所の判決に沿って強制的に共有状態を解消できることです。
デメリットは、訴訟費用・弁護士費用などが高額になったり、解決までに半年以上かかってしまったりすることです。
まとめ
実際に共有名義の相続登記をする場合に、このページの情報をお役立てください。
共有名義にはデメリットがありますので、事前にどうするかをご検討ください。
 
       
               
                        

 
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