共有持分の登記とは?かかる費用や税金・登記しないリスクを解説

「共有持分の登記って何をすればいいの?」
「登記しないとどんなリスクがあるんだろう?」

このように考えていませんか?

このページでは、共有持分の登記についてプロが詳しく解説します。

この記事の作成者

専門相談員 康原 工偉智Koichi Yasuhara

共有持分支援協会の代表相談員
大阪府出身。プロ野球選手を夢見て、名門PL学園から亜細亜大学に進学。度重なるケガでプロの夢を諦めるも、大手不動産会社に就職。持ち前のバイタリティで営業成績もトップクラスを誇る。共有持分を買取る投資家、不動産業者とのパイプも太い。

共有持分の登記とは?所有権移転登記との違い

共有持分とは、1つの不動産を複数人で所有している状態のことです。

権利を分ける理由は、不動産が物理的に分割できないからです。

兄弟2人で実家を相続した場合、それぞれが2分の1ずつの権利を持つことです。

共有持分について、より詳しくは「不動産の共有共有持分とは?共有名義との違いやメリット・デメリットを解説」をご覧になってください。

では、共有持分の登記と所有権移転登記の違いをご案内します。

共有持分の登記(持分移転登記)とは?

共有持分の登記とは、共有持分が相続や売買などで移ったとき、登記簿に新しい所有者の名前を反映させることです。

登記を行う理由は、権利関係を法的に明確化し、第三者に対して所有権を証明するためです。

例えば、AとBがそれぞれ1/2ずつ土地を所有しているとき、Aの持分を別の人に移すことをいいます。

登記を済ませると、次のようなメリットが得られます。

メリット 概要
権利の明確化できる 不動産の持分割合や所有者が法的に明確になり、第三者に対して権利を主張できる
トラブル防止できる 相続・売買・贈与などでの権利関係の争いを未然に防ぐこができる
売却・担保設定ができる 持分を売却できる、担保にすることで不動産担保ローンを利用できる

トラブルを防ぐといっても、共有者間の「住みたい」「売却したい」といった意見対立や相続人同士の感情的な対立は防ぐことはできません。

所有権移転登記との違い

所有権移転登記とは、不動産の所有権をまるごと移す登記のことです。

例えば、Aが単独で100%所有している土地をCに売却する場合は所有権移転登記です。

共有持分の登記と所有権移転登記の違いは次の通りです。

登記の種類 移転する権利
持分移転登記 部分的な所有権
所有権移転登記 100%の所有権

どちらも申請の流れや必要書類は大きく変わりません。

共有持分を登記しない3つのリスク

3つのリスク

共有持分を放棄とは、自分の持分を放棄して、自動的に他の共有者に引き渡すことです。

  1. 相続人が増えて登記が煩雑になる
  2. 固定資産税の請求が前所有者に届く
  3. 不動産を担保に資金調達できなくなる

詳しくご案内します。

【リスク①】相続人が増えて登記が煩雑になる

理由は、相続が発生するたびに配偶者や子どもへ持分が細かく分かれ、世代をまたぐごとに共有者が増えてしまうからです。

共有者が多いほど意思決定が難しくなり、売却や分割などの全員の同意が必要な手続きを進められなくなります 

例えば、最初は兄弟2人で半分ずつ所有していた不動産でも、次の相続で配偶者や子どもに持分が分かれ、さらに次の世代に広がり、連絡を取るのさえままならくなります。

【リスク②】固定資産税の請求が前所有者に届く

固定資産税とは、不動産の所有者に毎年課される地方税のことです。

登記せずにいると、前の所有者に固定資産税の請求が届きます。

理由は、固定資産税は毎年1月1日時点の登記名義人に課税される仕組みだからです。

例えば、12/1に持分の売却が完了した物件の登記を翌年の1/10に実施した場合、1/1時点の所有者に固定資産税の通知が届きます。

【リスク③】不動産を担保に資金調達できなくなる

理由は、金融機関は融資審査の際に、登記簿を基準に判断するからです。

名義が変わっていなければ、担保として認められません。

例えば、生活資金や事業資金などを借りたいときに登記が未了だと融資を受けられません。

また、賃貸物件であっても、家賃請求の権利を正式に主張できません。

共有持分の登記が必要な6つのケース

6つのケース
  1. 相続で共有持分を取得した
  2. 離婚で共有持分を取得した
  3. 共有持分を売買した
  4. 共有持分を贈与された
  5. 共有物分割請求で代償分割を受けた
  6. 共有持分を放棄した

詳しくご案内します。

【ケース①】相続で共有持分を取得した

相続で共有持分を取得するのは、被相続人が単独で所有していた不動産を、複数の相続人が法定相続分や遺産分割協議に基づいて取得する場合です。

例えば、父が単独名義で所有していた自宅を、母と子ども2人(合計3人)で相続することになり、法定相続分に沿って母2分の1、子ども4分の1ずつ の割合で共有登記するといったことです。

相続で共有名義にする方法は次の通りです。

  • 法定相続分
  • 遺産分割協議
  • 遺言

遺産分割協議とは、被相続人(亡くなった方)の財産を、相続人による話し合いで「誰がどの財産をどの割合で取得するか」を決める手続きのことです。

遺言とは、自分が亡くなった後の財産の分け方や処分の方法を、生前に本人が残す文書のことです。

【ケース②】離婚で共有持分を取得した

結婚後に夫婦が購入した不動産は、離婚時の財産分与で半分ずつつに分けます。

財産分与とは、夫婦が共同で築いた財産を公平に分ける手続きのことです。

例えば、夫が単独名義で購入した不動産を、離婚後、妻が2分の1の持分を取得することです。

ただし、住宅ローンが残っている場合は金融機関の承諾が必要です。

理由は、ローン契約時の審査内容が名義変更で崩れると、契約違反とみなされる可能性があるからです。

スムーズに登記するために、財産分与の取り決めを明文化した「離婚協議書」を作成しておいてください。

参考)法務局「財産分与

【ケース③】共有持分を売買した

共有持分の売買とは、共有者の一人が自分の持分を他の共有者や第三者に売買することです。

例えば、兄弟で2分の1ずつ共有している土地があり、弟が兄に売却して単独名義にするといったことです。

【ケース④】共有持分を贈与された

共有持分の贈与とは、自分が持つ不動産の持分を無償で他人に譲り渡すことです。

例えば、父親が所有する土地の2分の1を子どもに贈与する場合、その持分を登記簿に反映させなければなりません。

贈与は財産の移転のため、贈与税の対象ですので、事前に税理士にご相談ください。

【ケース⑤】共有物分割請求で代償分割を受けた

共有状態を整理する手段の一つが共有物分割請求です。

分割方法は3パターンあります。

分割法 概要
代償分割 金銭で他の共有者に補償し、不動産を単独名義にする
現物分割 土地を分筆するなどして、各共有者が物理的に不動産を分ける
換価分割 不動産を売却し、その代金を共有者で分ける

代償分割では、必ず持分移転登記を行ってください。

なお、現物分割や換価分割の場合も、それぞれの方法に応じた登記が必要ですが、手続きの内容は代償分割とは異なります。

なお、現物分割や換価分割の場合も、それぞれの方法に応じた登記が必要ですが、手続きの内容は代償分割とは異なります。

【ケース⑥】共有持分を放棄した

共有持分を放棄とは、自分の持分を手放すことができるという、民法第255条で定められた権利です。

放棄された持分は、自動的に他の共有者に引き渡されます。

無償で相手にあげることになるため、贈与として扱われます。

そのため、受け取った共有者に贈与税が発生する場合があります。

例えば、6,000万円の共有名義の不動産を、2人で2分の1ずつ所有していて、1人が持分を放棄した場合、放棄された3,000万円分は贈与による移転とみなされ、贈与税が課されますす。

贈与の場合は、所有権移転登記を行います。

理由は、登記ことで新しい所有者として法的に認められるからです。

参考)国税庁「民法第255条の規定により共有持分を取得した場合の相続税の課税関係

共有持分の必要書類と5つの申請手順

5つの申請手順
  1. 必要書類を準備する
  2. 登録免許税を納付する
  3. 登記申請書を作成する
  4. 法務局へ登記申請をする
  5. 登記が完了する

詳しくご案内します。

【手順①】必要書類を準備する

必要書類は次の通りです。

譲渡人 譲受人
登記識別情報通知 住民票
印鑑証明書 本人確認書類
実印 資金関係書類
固定資産税評価証明書 委任状
委任状

申請内容や原因によって追加書類が必要となる場合があります。

例えば、相続であれば戸籍謄本一式も必要です。

書類が足りないと申請が受理されないため、事前に司法書士などにご確認ください。

【手順②】登録免許税を納付する

登録免許税とは、不動産登記の際に国へ納める税金のことです。

計算式は「固定資産評価額×税率」です。

共有持分の場合は、取得する割合に応じた額を納めます。

基本の税率は2%ですが、相続の場合は軽減措置があるため0.4%です。

【手順③】登記申請書を作成する

必要書類を揃えたら、登記申請書を作成します。

法務局のサイトで雛形をダウンロードできます。

記載のポイントは次の通りです。

記載のポイント
  1. 「登記の目的」に持分移転の内容を書く
  2. 「権利者」欄に取得者、「義務者」欄に失権者を記載する
  3. 「課税価格」は固定資産税評価額を持分割合で按分して記入する

数字や氏名の記載を誤ると差し戻しになるため、慎重にご確認ください。

【手順④】法務局へ登記申請をする

申請書と必要書類を揃えたら、管轄の法務局に提出します。

申請方法は3つあります。

申請方法 メリット
・窓口へ持参 その場で不備を指摘してもらえる
・郵送 遠方でも利用でき、手間を省ける
・オンライン 24時間いつでも送信できる(受付処理は平日8:30~21:00のみ)

郵送やオンラインは便利ですが、修正のやり取りに時間がかかります。

【手順⑤】登記が完了する

登記が完了すると、「登記完了証」や「登記識別情報通知」が交付されます。

この際、必要に応じて「登記事項証明書」も取得してください。

登記事項証明書とは、登記簿の内容を正式に証明する書類のことで、次のような場面で活用される重要な書類です。

  • 売却時の権利確認
  • 住宅ローンの申し込み
  • 相続手続きの証明
  • その他の不動産取引

登記完了後は権利関係を示す証拠として、これらの書類を早めに確認しておいてください。

登記の完了までには申請から約1〜2週間程度かかります。

共有持分の登記で発生する費用と税金

共有持分の登記で発生する費用と税金について詳しくご案内します。

費用

共有持分の登記で発生する費用は次の通りです。

費用項目 費用(目安)
司法書士報酬 3万~10万円
税理士報酬 5万円~
印鑑証明書 300~450円/通
住民票 300~400円/通
印紙税 200円~
固定資産評価証明書 300~400円/通
郵送費・交通費 1,000~3,000円

これらの費用は目安です。

依頼する司法書士、地域、手続き内容によって変わります。

税金

発生する税金 概要
登録免許税 登記を行うときに課される国税
不動産取得税 不動産を取得したときに課される地方税
贈与税 個人から財産の贈与を受けた時に課される国税
相続税 相続人が財産を取得した時に課される国税
譲渡所得税 不動産を売却してその利益に課される国税

共有持分の登記で発生する税金は上記の通りです。

どの税金が発生するかは、共有持分を取得した原因(相続・贈与・売買など)によって決まります。

共有持分の登記後は共有を続ける?単独名義にする?

登記が完了した後は、そのまま共有状態を続ける方法と、他の共有者の持分をまとめて単独名義にする方法があります。

対応方法 メリット デメリット
共有を続ける ・新たな買取費用の負担がない
・他の共有者と一緒に利用できる
・売却を急がずに状況を見極められる
・維持費や修繕費を共同で負担する義務がある
・重要な決定には全員の承諾が必要
・相続により共有者が増加し、関係性が複雑になる
単独名義にする ・売却や抵当権設定の自由度が高い
・判断が迅速でトラブル回避につながる
・将来の相続手続きが簡単になる
・他の共有者の持分を買い取る資金が必要
・共有者の同意が得られない場合がある
・まとまった資金調達の負担が重くなる

            

どちらを選ぶかは、不動産の活用予定・経済的な余裕・将来の相続に対する考え方によって決まります。

共有持分登記のまとめ

共有持分の登記とは、共有持分が相続や売買などで移ったとき、登記簿に新しい所有者の名前を反映させる手続きのことです。

登記をしないとリスクがありますので、速やかにご対応ください。