「共有名義で後悔するのってどんな場面?」
「共有名義でトラブルにならないためにはどうすればいい?」
このように考えていませんか?
この記事では、共有名義でどんなことで後悔するのかについて、プロが分かりやすくご案内します。
目次
共有名義で後悔する9つのケース
- 住宅ローンの諸費用が2人分かかる
- 贈与税が発生する
- 活用するのに他の共有者の同意がいる
- 活用したいのに共有者と連絡が取れない
- 税金や維持管理費で揉める
- 共有者が実質的に独占している
- 財産分与で揉める
- 離婚相手の子供が共有者になった
- 共有者が増えすぎて収拾がつかない
それぞれご案内していきます。
【ケース①】住宅ローンの諸費用が2人分かかる
住宅ローンの諸費用とは、共有名義でペアローンを利用する場合、2人分のローン契約が発生するため、2人分の保証料や事務手数料などがかかることです。
-
ある夫婦が2,500万円ずつ借入れて、合計5,000万円のペアーンを組んだところ、諸費用は1人あたり約80万円ずつで、合計約160万円になった。
単独名義で5,000万円を組む場合を計算したところ、諸費用は約100万円のため、約60万円も総費用が増えることが分かった。
悩んだ末、ペアローンを組むことにした。
ただし、連帯債務型や連帯保証型の収入合算ローンの場合は1人分だけです。
ローンの種類 | 諸費用 |
---|---|
単独のローン | 1人分 |
ペアローン | 2人分 |
収入合算のローン(連帯保証) | 1人分 |
収入合算のローン(連帯債務) | 1人分 |
【ケース②】贈与税が発生する
実際にお金を出していないのに共有名義で登記すると、持分相当額が贈与とみなされ、贈与税の課税対象になるということです。
例えば、夫名義で住宅ローンを借りて5,000万円のマンションを購入したのに、登記では、夫と妻の共有名義で持分割合2分の1ずつとしている場合、妻が支払っていない持分相当の2,500万円について贈与とみなされます。
この場合は数百万円の贈与税が発生します。
例えば、5,000万円のマンションを夫婦が2,500万円ずつ出して購入し、持分を2分の1ずつにする場合は、課税される心配はありません。
【ケース③】活用するのに他の共有者の同意がいる
共有名義の不動産を売却・賃貸・リフォームなどの活用をするのに、他の共有者の同意が必要な行為があります。
共有者の同意が必要な行為は次のように定められています。
行為 | 範囲 | 必要な同意 |
---|---|---|
保存 |
・雨漏りや破損部分の修理 ・害虫駆除 ・老朽化部分の補修工事 ・建物や設備の清掃・保守 |
単独の判断で可能 |
管理 |
・賃貸契約の締結・更新 ・共用部分の改修やリフォーム ・建物の定期点検や大規模修繕計画 ・管理業務の委託や契約変更 |
共有者の持分の過半数 |
変更 |
・建物の増改築 ・用途の大幅な変更 ・土地の分筆や合筆 ・建物の取り壊し |
共有者全員の同意 |
処分 |
・共有不動産全体の売却 ・共有物全体の贈与や譲渡 ・建物の取り壊し ・共有物を担保に入れる(抵当権設定) |
共有者全員の同意 |
例えば、夫婦2人の共有名義でマンションを購入して離婚をした場合、相手の同意が無いとマンション全体を売却することができません。
ただし、住宅ローンを完済していれば、自分の持分だけを売却することはできます。
【ケース④】活用したいのに共有者と連絡が取れない
不動産を売却したり、賃貸したり、建て替えなどをしたくても、共有者の1人が行方不明だったり音信不通だったりする場合は、合意が得られず、進められません。
例えば、子供3人の共有名義で相続した6,000万円の戸建があり、2人は「売却して現金化したい」と考えているが、もう1人が海外に行ったまま連絡が取れない場合は、不動産全体を売却することができません。
この場合に取れる対策はいくつかあります。
方法 | 概要 |
---|---|
自分の持分のみ売却 | 共有者が自分の持分だけを第三者に売却する方法 |
共有物分割請求訴訟 | 裁判所に申し立て、共有物を分割(現物分割または換価分割)して各共有者に分配する方法 |
所在不明者の共有持分の取得制度 | 長期間不在・連絡が取れない共有者の持分を、裁判所の許可を得て取得する制度(民法262条の2) |
最も手間がかからないのは、自分の持分だけを売却する方法です。
共有物分割請求訴訟とについては、「共有物分割請求訴訟とは?」で詳しくご案内していますので、ご覧になってみてください。
【ケース⑤】税金や維持管理費で揉める
共有名義で不動産を所有していると、固定資産税や修繕費などの負担を巡ってトラブルになることが多いです。
民法253条で「各共有者は、その持分に応じて共有物の負担を負う」と規定されています。
全ての共有者に負担義務があるため、「利用していないから払わないでOK」とはなりません。
-
兄弟3人の共有名義で相続した不動産がある。毎年の固定資産税は15万円。
持分は均等なので、毎年1人5万円を出していたが、ある年から末の弟が「自分は土地を使っていないから払いたくない」と拒否した。
住んでいる長男が末の弟を説得したがダメだった。兄弟の関係は急速に悪化し、お互いに一切連絡を取らなくなった。
【ケース⑥】共有者が実質的に独占している
共有名義なのに、一部の共有者だけが不動産を独占的に使って、他の共有者が利用できない状態では、持分に応じた利用する権利が使えないため、不公平感が募ります。
-
兄と弟で相続した共有名義の実家があり、持分が2分の1ずつあるのに兄だけが住み続けていた、
弟にはメリットがないため「おかしい」と思っていた。
あるとき、兄から「固定資産税を半分支払うべきだ」と連絡が来た。
(絶対おかしい)と思った弟はネットでいろいろ調べた。
その結果、兄に賃料を支払うようにメッセージで伝えたところ、兄が家に怒鳴り込んできた。
弟はこれまでの不満があったため、一歩も引かず、取っ組み合いのけんかになった。
【ケース⑦】財産分与で揉める
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を公平に分け合う制度のことです。
これまでの出資割合は関係なく、半分にすることになります。
例えば、2人が住んでいた戸建の支払いの割合が夫が3/4、妻が1/4でも、1/2に分ける必要があります。
さらに、離婚で財産分与をする場合、次のようなことを話し合う必要があります。
- 売却するのか、どちらかが住むのか
- 住宅ローンが残っている場合はどうするのか
- 持分割合は2分の1だが、実際は夫だけが支払っていた場合はどうするのか
例えば、夫婦で共有名義で購入したマンションがあり、元夫は「マンションを現金化したい」と主張するが、元妻が「子供のために住み続けたい」主張すれば、話し合いがまとまりません。
【ケース⑧】離婚相手の子供が共有者になった
離婚後も共有名義のままにしていた場合、面識の無い元配偶者の子供が共有者になることがあります。
民法上は正当な共有者で、持分に応じた権利を持っています。
-
数35年前に、夫婦で共有名義で戸建を購入した。
離婚後、元妻は子供のためにその家に住み続けていた。
ある日、内容証明郵便が届いた。
開封すると「○年○月から現在まで、持分に応じた使用料として月○万円を支払ってください」と書いてあった。
家賃請求の差出人は、一度も面識がない元夫の子供だった。
【場面⑨】共有者が増えすぎて収拾がつかない
相続を繰り返すことで不動産の共有名義人が増えて、活用などについて合意を得るのがとても難しくなります。
共有者が雪だるま式に増えると、面識がない人が多く、連絡先を把握することすらままならない状況になります。
固定資産税の負担だけをして、思うように売却もできないという事態になります。
共有名義で後悔しないための10の予防法
- 売却しておいてもらう
- 家族信託を利用する
- 生前に希望を伝える
- 遺産分割協議で希望を伝える
- 共有物分割禁止特約を利用する
- 単独名義にする
- 明確なルールを決めておく
- 分筆する
- 持分を売却する
- 定期的に話し合いをする
詳しくご案内します。
【予防法①】売却しておいてもらう
相続が発生する前に不動産の所有者本人に、売却して現金化しておいてもらうという方法です。
共有名義にしなくてすみます。
メリットは次の通りです。
- 遺産分割の手間がかからない
- 固定資産税や維持管理費が発生しない
- 公平に分けやすい
デメリットは次の通りです。
- 売却時に諸費用や譲渡税が発生する
- 思い入れのある実家を手放すことになる(不動産が実家の場合)
- 別途、住まいが必要
【予防法②】家族信託を利用する
家族信託とは、財産を持つ人が、信頼できる家族に財産の管理・運用・処分を託す契約制度のことです。
例えば、親が元気なうちから財産の管理を家族に託し、将来認知症になったら不動産を売却して介護費用を捻出できるように定めるといったことです。
共有名義にしなくてすみます。
メリットは次の通りです。
- 認知症になっても財産を管理・処分できる
- 遺言の代用になる
- 自由度が高い
契約で自由度の高い管理(資産運用・売却・借入など)ができます。
デメリットは次の通りです。
- 専門家のサポートを受ける必要がある
- 節税効果はない
【予防法③】生前に希望を伝える
生きている間に、自分が亡くなった後の不動産の扱いについて家族に意向を伝えておくという方法です。
例えば、5,000万円の自宅を所有している父が「この家は長男に住んでもらいたい。その代わり、次男と三男には、相当の現金を渡す」と生前に家族へ話しておくといったことです。
実行できれば、共有名義にしなくてすみます。
メリットは次の通りです。
- 相続人が方針を共有できる
- 本人の意向を尊重した形で不動産を活用できる
デメリットは次の通りです。
- 法的拘束力はない
- 話だけで終わりになることがある
- 家族間で解釈が異なると対立することがある
- ある程度の資産が必要
話して終わりにせず、実行するには、遺言書の作成などが必要です。
不動産に相当する現金を、別途用意しておく必要があるため、できる人は限られます。
【予防法④】遺産分割協議で希望を伝える
遺産分割協議とは、相続人全員で、亡くなった人(被相続人)の遺産の分け方を話し合って、全員の合意で決める手続きのことです。
例えば、兄弟3人で実家を相続する場合に、「長男が不動産を単独で相続し、弟たちは相当分の金額を受け取る」といったことです。
遺産分割協議で全員の合意が得られれば、共有名義にしなくてすみます。
メリットは次の通りです。
- 公平に分割できる(後で不平不満が無い)
- 不動産の活用方法(売却・活用・居住など)を自由に決められる
デメリットは次の通りです。
- 専門家のサポートが必要
- 1人でも反対すると成立しない
- 協議が長期化することがある
- 共有名義を回避できない場合がある
専門家のサポートを受けるには数万円~かかります。
遺産分割協議では、相続人全員の同意が必要です。
そのためには、相続する人が公平になるように相応の現金が必要です。
【予防法⑤】共有物分割禁止特約を利用する
共有物分割禁止特約とは、一定期間その共有物を分割しないことを約束する契約のことです。
期間は、民法256条で最長で5年間と定められています。
例えば、兄弟3人が実家を共有名義で相続したところ「売却する」「誰かが住み続ける」と意見が分かれてたので、この特約を設定し、冷静に話し合いをする時間を確保するといった使い方をします。
共有名義になるのを防ぐことはできませんが、トラブルになるのを防ぐことができる可能性があります。
デメリットは次の通りです。
- 専門家のサポートが必要
- 全員の同意が必要
- 登記が必要
- 期間中でも、持分だけなら売却できる
自分の共有持分だけなら、他の人の同意不要で、自由に売却できます。
【予防法⑥】単独名義にする
単独名義とは、不動産の所有者が1名という状態のことです。
単独名義にする方法はいくつかあります。
- 生前贈与をする
- 遺言に記載をする
- 遺産分割協議をする
共有持分にせずにすみます。
実際には、不動産を単独名義で登記した後、不動産を売却し、その代金を相続人間で按分することが多いです。
これができればスムーズですが、次のようなデメリットもあります。
- 専門家のサポートが必要
- 持分相当分の現金が必要
【予防法⑦】明確なルールを決めておく
不動産を共有する際に、トラブルになりそうな内容について、あらかじめ契約書などを作成し、話し合いで合意を取っておくという方法です。
例えば次のような内容です。
項目 | ルールの例 |
---|---|
持分割合の明確化 | 親の不動産を子ども3人で相続し、それぞれ3分の1ずつの持分とする |
売却時の取り決め | ○○年までに売却を目指す、持分を売却する場合は、他の共有者が優先的に買い取るなど |
費用の負担方法 | 固定資産税や修繕費は、持分割合に応じて負担する |
不動産の利用方法 | 長男が居住する代わりに、他の2人に年間50万円ずつ支払う、といった取り決めをする |
この方法なら、共有名義でもトラブルになりづらいです。
【予防法⑧】分筆する
分筆とは、一つの土地を複数の区画に分け、それぞれを単独名義にすることです。
共有持分にせずにすみます。
例えば、120坪の土地を相続人3人で分ける場合に、40坪ずつに分筆してそれぞれ単独名義にするといったことです。
住所は、1丁目2番3号→1丁目2番3の1、1丁目2番3の2などとなります。
単独名義ですので、所有者の自由に利用できます。
デメリットは次の通りです。
- 相応の費用がかかる
- 土地の形状で揉めることがある
- 分筆するほどの土地が無いと利用できない
- 規制されている土地がある
【予防法⑨】持分を売却する
自分が持っている持分だけなら、いつでも自由に売却できます。
例えば、6,000万円の共有名義の不動産を3人で、均等な持分で共有している場合、自分の持分の3分の1を不動産業者に売却することができます。
共有者ではなくなり、不動産業者が新たな共有者になります。
デメリットは、次の通りです。
- 買取業者の買取中には悪質・得得な業者がいる
- 買取業者の買取価格の相場は安い
- 売却後に、新たな共有者と元々の共有者がトラブルになることがある
- 他の共有者がクレームを言ってくることがある
【予防法⑩】定期的に話し合いをする
共有者同士が定期的に集まり、不動産の利用や管理、将来の方針について意見を交換し合うという方法です。
共有名義によるトラブルを防ぐことができます。
この場合は、話し合った内容を議事録や覚書として残しておいてください。
例えば、年に1回、兄弟3人の共有名義の実家について、「固定資産税の負担割合」や「修繕費の積立の負担割合」「将来売却するタイミング」などを確認し合い、合意内容を簡単な文書にまとめておくといったことです。
デメリットは次の通りです。
- 話し合いで意見が対立すると関係が悪化する可能性がある
- 「言った」「言わない」のトラブルになる可能性がある
「今、共有名義で後悔している」場合の5つの対処法
- 共有持分を売却する
- 他の共有者の共有持分を買い取る
- 共有持分を他の共有者に売却する
- 共有持分を放棄する
- 共有物分割請求をする
共有者同士での売買には、相応の現金と知識が必要です。
共有持分を放棄しても、移転登記をしないと、税負担からは逃れられません。
共有物分割請求をするとは、共有者間で不動産の管理や利用方法に意見が合わない場合に、共有状態を解消するために分割や売却を求めることです。
話し合いがまとまらなければ、裁判所に提起をします。
より詳しくはこちらの「共有物分割請求訴訟とは?」でご確認ください。
共有名義の不動産に対応している不動産業者に依頼する場合、次のことを頭に入れておく必要があります。
- 共有名義の不動産の売却価格は低い
- 売却までに時間がかかる
- 対応している不動産会社が少ない
- 悪質・悪徳な業者がいる
価格が低いとは、具体的には、市場価格の30%~50%になることです。
例えば、6,000万円の戸建を4人の共有名義で相続し、持分は1/6の場合、売却価格は持分相当の1,000万円ではなく、その30%~50%の300万円~500万円になるということです。
一般の不動産会社に持ち込んでも断られてしまうことがありますので、専門の業者を探す必要があります。
できるだけ高く売るなら、仲介をしている業者に依頼してください。
共有名義には後悔もあるがメリットもある
- 遺産分割を公平に行える
- 管理費・維持費を分割で支払える
- 譲渡所得税を節税できる
詳しくご案内します。
【メリット①】遺産分割を公平に行える
遺産分割とは、亡くなった人(被相続人)が残した財産を、相続人同士で分けることです。
「不動産しか遺産がない」「代償金を支払う余裕がない」といった場合に、法定相続分に応じて公平に持分を分割すれば、「私だけが得をしている」という不満感が残りづらいです。
例えば、遺産が実家(4,000万円)と預金(500万円)の場合、兄弟2人で実家を持分2分の1ずつに分け、預金は250万円ずつに分けるといったことです。
【メリット②】管理費・維持費を分割で支払える
不動産の名義人が複数人いるため、固定資産税や修繕費などの管理費や維持費を、各自の持分に応じて負担することになります。
負担を分散できるということです。
例えば、固定資産税が毎年15万円発生していても、3人の共有名義で3等分しているなら、1人あたり5万円の負担ですみます。
【メリット③】譲渡所得税を節税できる
譲渡所得税とは、売却したときに得られた利益(譲渡所得)に対して課される税金のことです。
共有名義の不動産の場合、次のようなメリットがあります。
- 譲渡所得を持分割合で分割できる
- 最大3,000万円の特別控除を人数分受けられる
最大3,000万円の特別控除とは、マイホームを売却したときに受けられる控除のことです。
例えば、夫婦2人の共有名義(持分2分の1ずつ)で所有している6,000万円のマイホームを売却する場合、夫・妻それぞれが3,000万円の特別控除がありますので、譲渡所得税は発生しません。
共有名義の後悔についてのまとめ
共有名義で後悔するケースは9ありました。
予防法もありますが、それぞれ一長一短あります。
共有名義の不動産のうち、自分の持分だけならいつでも売却できますので、ご検討ください。