「共同名義人が認知症でも不動産は売却できる?」
「売却できないまま放置すると、どうなる?」
このように考えていませんか?
この記事では、認知症の共同名義人がいる不動産の売却方法について、プロが分かりやすくご案内しています。
目次
共同名義人が認知症だと「不動産の売却がNG」になる3つの理由
- 認知症で意思能力がないと判断されると売買契約が無効になる
- 不動産全体の売却には共有者全員の同意が必要になる
- 委任状を作成していても無効となる
順番にご案内します。
認知症で意思能力がないと判断されると売買契約が無効になる
民法3条の2で「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と定められているからです。
意思能力とは、契約内容を理解し判断する能力のことです。
例えば、共同名義人の親が認知症で「不動産を売却すると所有権が買主に移る」「売却代金を受け取る」といった内容を理解できなければ、意思能力は無いと判断されます。
次の行為も対象です。
- 売買契約書への署名
- 代金決済への出席
- 印鑑証明書の提出
認知症で意思能力がないと判断されると無効になります。
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母親と長女で実家を2分の1ずつ共有していたが、母親は軽度の認知症と診断されていた。
長女が売却を進め買主も決まったが、司法書士との面談で母親が「よく分からないけど、娘が言うから」と繰り返すだけだった。
司法書士から「売却の意味を理解しているとは言えず、登記はお受けできません」と判断され、売却手続きは中止となった。
不動産全体の売却には共有者全員の同意が必要になる
民法251条で「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。」と定められているからです。
不動産の売却は、所有権が買主に移る「変更行為」です。
そのため、共同名義人の1人でも反対すれば売却NGです。
例えば、親子2人で共同名義の不動産を売却する場合、子が売却したくても、親が認知症で意思能力がなければ、親の同意は法的に無効です。
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母親と長男で実家を2分の1ずつ共有しているが、あるとき母親が重度の認知症と診断された。
長男は「実家を売却して施設費用に充てたい」と考え、不動産屋に査定を依頼し3,000万円と出た。
(これなら十分に賄える)と思ったが、「お母様のご署名は、残念ながら法的に無効ですので、このままでは売却できません」と言われた。
委任状を作成していても無効となる
委任状とは、他の共同名義人に売買の手続きを任せる書類のことです。
「委任状があれば認知症の親に代わって売却できる」は間違いです。
委任状の作成は「委任契約」という法律行為のため、無効になるからです。
例えば、認知症の親の印鑑を子が勝手に使って委任状を作成して不動産を売却しても、後日親に意思能力が無いことが判明すれば、契約は無効になります。
共同名義人が認知症で売却できないと起こる4つのリスク
- 現金化できない
- 固定資産税や修繕費の負担だけが続く
- 相続時に共有者が増えて複雑化する
- 空き家の老朽化が進む
順番にご案内します。
【リスク①】現金化できない
ここまででご案内したように、親が認知症で意思能力がなければ売却できないからです。
認知症の親の介護には次の費用がかかります。
- 施設への入居…施設の入居一時金で0円〜数千万円、月額10万〜30万円程度
- 在宅介護…月額7万〜15万円程度
認知症の親の預貯金などの他の資産も、親本人名義のものは引き出せません。
家族が自己資金や借入で補わなければならない場合もあります。
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共有不動産に同居していた母親が認知症になった。
施設の入居一時金600万円と月額費用20万円かかるので、母親名義の定期預金や普通預金を使いたい。
銀行に1,500万円あるが、銀行から「ご本人に意思能力がない場合、ご家族でも引き出せません」と断られた。
長男は自分の預金で立替えた。
【リスク②】固定資産税や修繕費の負担だけが続く
不動産を所有していると、次の費用が発生するからです。
- 固定資産税、都市計画税
- 建物の修繕費
- 管理費(マンションの場合)
固定資産税は、固定資産税評価額に税率1.4%を乗じて計算します。
例えば、評価額3,000万円の不動産の場合、年間約42万円です。
固定資産税の他、庭木の手入れや雨漏りなどの修繕費用など支出が発生します。
こうした費用を共有者が立て替える場合、親族間で揉めることがあります。
【リスク③】相続時に共有者が増えて複雑化する
共同名義人が亡くなると、その持分が法定相続人に分散されるからです。
法定相続人とは、法律で定められた相続する権利を持つ人のことです。
例えば、兄弟2人の共同名義の不動産があり、兄が認知症のまま亡くなったら、兄の持分は配偶者と子供2人に分割され、弟・兄の配偶者・兄の子供2人の計4人に増え、さらに次の世代で10人以上になる、といったことです。
共同名義人が増えると、次のような問題が発生します。
- 全員の同意を得るのが手間
- 連絡が取れない人が出てくる
- 意見が対立して揉める
共有者同士が揉めてトラブルになった場合などは、共有物分割請求訴訟をすることもあります。
共有物分割請求訴訟についてはこちらでご案内しています。
【リスク④】空き家の老朽化が進む
不動産が放置されるからです。
老朽化が進むと、次のような問題が発生します。
- 屋根材や外壁材の飛散
- 雑草や害虫の発生
- ごみの不法投棄
- 建物の倒壊
自治体から特定空き家に指定されると、次のようなデメリットがあります。
- 固定資産税の軽減措置が解除される(最大6倍になる)
- 過料が科される(最大50万円)
- 行政代執行で解体費用を請求される(数十万円~数百万円)
また、近隣住民から苦情が出ることがあります。
例えば、兄弟で共同名義の実家があり、兄が認知症で売却できずにいて、実家の屋根が崩れて隣家に被害が出ると、隣人と揉めて、損害賠償を請求されることがあります。
共有者が認知症でも成年後見制度で不動産を売却できる

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が不十分な人に代わって、家庭裁判所が選任した成年後見人が売買契約などの法律行為を行うことです。
判断能力の程度に応じて次の3つに分かれます。
| 類型 | 対象者 |
|---|---|
| 後見 | 判断能力が著しく低下している人(重度の認知症など) |
| 保佐 | 判断能力が著しく低下していないが援助が必要な人(軽度の認知症など) |
| 補助 | 判断能力が不十分な部分がある人 |
どの類型に該当するかは、家庭裁判所が診断書などをもとに決定します。
成年後見人が選任されれば、その後見人が認知症の共有者に代わって売買契約に署名し、代金決済に出席できます。
後見開始の申立てから、後見・保佐・補助の選任まで2〜4ヶ月程度かかります。
代理権の付与には1~3ヶ月かかりますので、トータル3~7ヶ月かかります。
いずれの場合も、選任に数万円~数十万円、年額で24~72万円ほどかかります。
より詳しくは、お近くの家庭裁判にお問い合わせください。
>>全国の家庭裁判所
成年後見制度を利用する際の5つの注意点
- 後見業務は本人が亡くなるまで継続する
- 後見人への報酬が継続的に発生する
- 不動産売却の許可が降りない場合もある
- 後見人は自由に選べない
- 後見人になれない人がいる
順番にご案内します。
【注意①】後見業務は本人が亡くなるまで継続する
理由は、本人の生活と財産を安定して守るためです。
辞任する場合、家庭裁判所の許可と後任者の選定手続きが必要です。
許可されるのは、次のような場合だけです。
- 医師の診断書で本人の症状の回復が認められた
- 後見人が高齢や病気で業務継続が困難になった
- 後見人が遠方へ転居することになった
例えば、「不動産の売却が完了した」「報酬が少ない」「業務の負担が重い」という理由では、辞任できません。
【注意②】後見人への報酬が継続的に発生する
専門家が後見人に就任した場合、本人が亡くなるまで報酬を支払い続けることになります。
次のような義務に対する報酬です。
- 本人の財産管理
- 家庭裁判所への定期報告
- 本人の生活に関する契約手続き
報酬額の目安は次の通りです。
| 財産 | 月額報酬 |
|---|---|
| ~1,000万円 | 月額2万円程度 |
| 1,000万円~5,000万円 | 月額3~4万円程度 |
| 5,000万円~ | 月額5~6万円程度 |
例えば、財産2,000万円の場合、毎月の報酬は3万円で、仮に10年後に亡くなると、総額360万円の報酬が発生するということです。
親族が後見人になる場合、報酬を請求しなければ費用は発生しません。
【注意③】不動産売却の許可が下りない場合もある
「売却が本人の利益にならない」と家庭裁判所が判断すれば、許可が下りません。
後見制度は本人の財産を保護する制度だからです。
許可が無いのに、居住用不動産を売却しても、契約無効となります。
家庭裁判所は次の内容で判断します。
- 売却の必要性
- 本人の生活や介護の状況
- 本人の意向
- 売却条件
- 売却後の代金の保管方法
- 親族の態度
ですので、複数の不動産会社に査定依頼をし、妥当な金額をご提示ください。
【注意④】後見人は自由に選べない
申立人は後見人の候補者を推薦できますが、最終的な判断は家庭裁判所が行います。
申立人とは、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てる人のことです。
選任される後見人は次の通りです。
- 本人の親族(配偶者、子、兄弟姉妹など)
- 弁護士
- 司法書士
- 社会福祉士
例えば、子が「自分を後見人にしてほしい」と希望しても、家庭裁判所が弁護士などの専門家を選任するケースがあります。
【注意⑤】後見人になれない人がいる
欠格事由のある人は後見人になれません。
欠格事由とは、法律で定められた不適格な条件や事柄のことです。
民法847条で定められているのは次の通りです。
- 未成年者
- 不正行為などで後見人を解任された経歴を持つ人
- 破産者
- 本人と訴訟で争っている人やその配偶者、直系血族
- 行方不明者
例えば、破産者は自己破産申し立てから4〜8か月程度で復権しますし、裁判中でも訴訟が終了すれば復権します。
成年後見制度で共有不動産を売却する流れと費用
流れは次の通りです。
| 手続き内容 | 概要 |
|---|---|
| ①司法書士や弁護士に相談する | 後見業務を積極的に取り扱っている専門家に相談する |
| ②医師の診断書を取得する | 家庭裁判所指定のフォーマットで医師に診断書を作成してもらう |
| ③必要書類を準備する | 申立書、戸籍謄本、住民票、医師の診断書などを揃える |
| ④家庭裁判所に後見開始の申立てをする | 本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行う |
| ⑤家庭裁判所による審理と後見人の選任を受ける | 家庭裁判所が本人や親族との面談、調査官による調査、医師による鑑定などを行い、後見人を選任する |
| ⑥家庭裁判所に不動産売却の許可を申請する | 売却理由、売却価格、代金の使途を説明し、本人の利益に資することを証明する |
| ⑦不動産会社を通じて売却する | 許可が下りた後、後見人が認知症の共有者を代理して不動産会社と媒介契約を結び、買主と売買契約を締結する |
- 申立手数料(収入印紙):800円〜2,400円
- 登記手数料(収入印紙):2,600円
- 郵便切手:3,000円〜5,000円程度
- 鑑定費用:5万円〜10万円程度(鑑定が必要な場合)
- 司法書士や弁護士への報酬:数万円〜数十万円程度
書類の準備から後見の登記完了まで、半年以上かかることもあります。
余裕を持ったスケジュールで進めてください。
手続きを自分で行う場合は、家庭裁判所が用意しているこちらの「成年後見制度における診断書作成の手引」をご覧ください。
親や配偶者が認知症の時に「不動産全体の売却」以外にできる2つのこと
- 自分の共有持分だけを売却する
- 共有物分割請求訴訟をする
順番にご案内します。
①自分の共有持分だけを売却する
自分の共有持分だけであれば他の共有者の同意なく売却できることが民法206条で規定されています。
この方法のメリットは次の通りです。
- 成年後見制度の利用が不要
- 短期間で現金化できる
- 共有関係から完全に抜け出せる
ただし、自分の持分を売却する場合は、市場価格の30~50%になります。
例えば、共有不動産の査定額が3,000万円で持分が2分の1の場合、1500万円ではなく、450万円~750万円になるということです。
詳しくは「共有持分の売却相場は市場価格より30~50%低い!」でご確認ください。
また、認知症の共有者がいる状態で、自分の持分だけを第三者(買取業者など)に売却すると、次のような問題が発生します。
- 買取業者が他の共有者に買取交渉を行う
- 買取業者に共有物分割請求訴訟を起こされる
- 訴訟に対応する必要がある
- 判決の結果、換価分割(競売分割)で家を失うケースが多い
認知症の人がいても、裁判所による判決は下されます。
②共有物分割請求訴訟をする
共有物分割請求訴訟とは、裁判所の判決で共同不動産を分割する裁判のことです。
判決のパターンは3つあります。
- 現物分割…不動産を物理的に分割する
- 代償分割…一方が不動産を取得し、他方に代償金を支払う
- 換価分割…不動産を競売にかけて代金を分配する
特別代理人とは、特定の訴訟行為を目的に家庭裁判所が一時的に選任する法定代理人のことで、親族や弁護士や司法書士などの専門家が請け負います。
例えば、兄弟で共同名義の土地があり、兄が認知症の場合、弟が特別代理人の選任を申し立てをした上で、共有物分割請求訴訟を提起し、裁判所の判決に従って、共有状態を解消します。
この方法のメリットは次の通りです。
- 共有状態を完全に解消できる
- 裁判所が公平な分割方法を決定してくれる
デメリットは次の通りです。
- 解決まで半年から1年以上かかる
- 弁護士費用や鑑定費用など50万円〜150万円かかる
- 自分の希望通りの判決になるとは限らない
共有者の認知症が軽度なうちにできる7つの対策
- 不動産全体を売却する
- 家族信託を活用する
- 共有持分を買取る
- 自分の持分を売却する
- 任意後見制度を利用する
- 生前贈与をする
- 遺言書を作成する
順番にご案内します。
【対策①】不動産全体を売却する
共有者全員の同意を得て不動産全体を売却し、代金を持分割合で分配する方法です。
メリットは次の通りです。
- 市場価格で売却できる
- 共有関係を完全に解消できる
- 固定資産税や維持費の負担がなくなる
デメリットは次の通りです。
- 共有者全員の同意が必要
- 売却価格の分配で揉める可能性がある
【対策②】家族信託を活用する
家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族に託し、決めた目的通りに管理・処分してもらう仕組みのことです。
メリットは次の通りです。
- 本人の財産を柔軟に活用できる
- 相続対策としても機能する
デメリットは次の通りです。
- 専門家への報酬が数十万円程度かかる
- 契約内容が複雑で理解に時間がかかる
-
父親が「判断能力があるうちに信託契約を結びたい」「認知症になったら、長男が実家を売って介護費用にしてほしい」と言ってきた。
良く分からなかったが、その後、父に認知症が発祥し、ある程度まで進行したため、施設への入居が必要になった。
入居費用2,000万円が必要になったため、信託の内容の通り実家を売却し、現金を確保したことで、スムーズに入居できた。
当時は父の言っている内容がよく分からなったが、「最善の判断」だと思った。
【対策③】共有持分を買取る
他の共有者から共有持分を買い取り、単独名義にする方法です。
メリットは次の通りです。
- 単独名義になり自由に活用できる
- 贈与税が発生しない
- 将来の売却や賃貸で資産価値を最大化できる
デメリットは次の通りです。
- まとまった資金いる
- 適正価格で売買しないと贈与とみなされる
身内間の売買だからといって本来の不動産価格よりも安い価格で買い取ると、差額分が贈与とみなされて課税される可能性があります。
【対策④】自分の持分を売却する
自分の共有持分だけを第三者に売却し、共有関係から抜け出す方法です。
メリット、デメリットは、「親や配偶者が認知症の時に「不動産全体の売却」以外にできる2つのこと」でご案内した通りです。
【対策⑤】任意後見制度を利用する
任意後見制度とは、将来の判断能力低下に備えて、本人が公正証書で契約して後見人を選任する制度のことです。
公正証書とは、公証人が法律に基づいて作成する公文書のことです。
メリットは次の通りです。
- 法定後見制度と異なり、後見人を自分で選べる
- 本人の意思を尊重した財産管理ができる
デメリットは次の通りです。
- 公正証書の作成費用がかかる
- 任意後見監督人への報酬が発生する
【対策⑥】生前贈与をする
親から子へ共有持分を贈与し、単独名義にする方法です。
メリットは次の通りです。
- 単独名義になり管理しやすくなる
- 売却や活用が自由にできる
デメリットは贈与税が発生することです。
贈与する共有持分の評価額が110万円を超える場合、贈与税がかかります。
例えば、不動産評価額3,000万円の戸建の持分2分の1を贈与する場合、贈与税は数百万円かかります。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子または孫に対して、2,500万円までの贈与が課税対象外となる制度のことです。
【対策⑦】遺言書を作成する
遺言書を作成し、遺産の分割方法を指定しておく方法です。
相続が発生したら、遺言書の内容に従って遺産を分割します。
メリットは次の通りです。
- 遺産分割協議が不要になる
- 相続人同士の争いを未然に防げる
デメリットは次の通りです。
- 自筆証書遺言は内容不備で無効になる可能性がある
- 公正証書遺言は費用がかかる
自筆証書遺言とは、遺言書の全文を自ら書き、押印して作成する遺言のことです。
公正証書遺言とは、遺言者が2人以上の証人の立会いのもとで遺言を口述し、公証人が文章化して作成する遺言のことです。
まとめ
共同名義人が認知症になった場合、成年後見制度を利用すれば不動産全体を売却できます。
ただし、この制度には選任する費用や月額の報酬が発生するなどの注意点があります。
